令和8年(2026年)3月20日(金) / 日医ニュース
岩手県の臨床研修医教育(全県を挙げた研修システムの利点と課題)
いわてイーハトーヴ臨床研修病院群WG代表/岩手医科大学医学部総合診療医学講座講師 米田真也
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1.いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の概要
岩手県には、四国に匹敵する広大な県域に11の臨床研修病院がある(県立病院8、赤十字病院1、市立病院1、私立大学病院1)。しかし中小規模の病院が多く、自院のみで全ての必修診療科研修を行うことができる病院は5施設に限られている。多くの診療科がそろっていない地方の臨床研修病院は、医学生から見た場合、いわゆる「スペック」としては魅力を感じないかも知れない。しかし、必然的にグループダイナミクスが生じることによるメリットも多くある。岩手県では全ての臨床研修病院が連携し、「いわてイーハトーヴ臨床研修病院群」として全県を挙げた研修システムを構築し、協力して臨床研修医の教育を担っている。以下にその特徴を解説する。
2.たすきがけ研修の実践
たすきがけ研修とは、診療科や病院を選択して研修できる制度であり、岩手県内全ての臨床研修病院でたすきがけ研修が可能である。各病院の事務が連携して研修時期や宿舎の手配を行うため、研修医は事務手続きの負担を最小限にして、他院で研修をすることができる。そのため、1カ月当たり100人程度の利用実績がある。自院で研修ができない診療科の研修を希望に応じた病院で行うことができる他、異なる病院の文化を学ぶ良い機会となり、他院の指導医・研修医とも交流ができる。また、広大な岩手県は地域によって風土、文化が異なり、その土地ならではの生活も楽しむことができる。
3.合同で行う教育活動・リクルート活動
1年に1回、県内同期の研修医全員が集まって、教育を受ける機会を提供している。1年次の4月には、社会人としての礼節や多職種連携を学ぶ、合同オリエンテーションを開催している。2年次の9月には、臨床能力向上セミナーと題し、エコーなどの臨床研修で身に付けた技術を研修医同士で確認することや、ACPについて考える機会を設けている。いずれも異なる臨床研修病院の研修医同士のつながりを深める場にもなっている。
指導医同士も全ての臨床研修病院から集まって、指導医講習会やFaculty Developmentを開催したり、お互いの研修システムを視察・評価し合うpeer reviewを行い、臨床研修の質向上に努めている。リクルート活動も共同で行っており、県外の大学に通う岩手県出身者を対象とした県人会や、臨床研修病院説明会を開催している。
いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の活動は、岩手県が事務局を担っており、活動の様子はSNSやホームページなどを通じて、積極的に広報が行われている。
4.つながりとグループダイナミクスの意義
岩手県は医師偏在指標が全国最下位(47位)の医師少数地域である。しかし、医療職同士の関係性が密になり、病院や診療科を超えて協力しやすいというメリットもある。いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の取り組みは、いずれもそのダイナミクスを活用し、研修医同士、研修医と指導医、メディカルスタッフ間の交流を深めることを意図している。
岩手県の臨床研修医は、約77%(2024年度修了者)が臨床研修修了後も岩手県内の病院に勤務しているため、勤務する病院・診療科は変わるものの、再び共に働く可能性が高く、お互い相談しやすい関係を作ることができる。また、色々な病院の指導医やメディカルスタッフと接点をもつことも、将来のキャリア形成や業務の円滑さに寄与するものと考えられる。
研修医・指導医のストレス緩和要因として、ポジティブ・フィードバックやワークライフバランス、サポートシステム、家族や非医療関係者との交流、悩みを話す場の存在が挙げられる。
「つながり」はメンタルヘルスにおいて重要な役割を果たし、社会資源の活用や仲間との相互作用、居場所の獲得などがストレス緩和に寄与していると考えられる。例年行っている研修医に対するアンケート調査では、岩手県の臨床研修医の満足度は高く、臨床研修中断者数は、全国的に見て比較的低い割合で推移している。
5.今後の課題
たすきがけ研修のデメリットとして、移動や住居、事務手続きの煩雑さ、システムへの慣れに時間がかかる点が挙げられる。また、指導医の負担増や集まりが苦手な人への配慮、予算面の課題も存在する。活動の成果が臨床研修医数という数字的アウトカムにはまだつながっていないことも課題の一つであろう。より一層充実した教育・サポート体制づくりと、効果的なリクルート活動が求められる。
6.まとめ
岩手県の臨床研修医教育は、全県を挙げた病院群連携による「つながり」を重視したシステムである。たすきがけ研修や共同教育活動は、研修医の満足度向上や、臨床研修修了後の県内残留率、研修中断率が低いことに寄与している可能性がある。一方で、事務手続きやシステム面、指導医の負担、アウトカムの検証など課題も残されている。今後は、これらの課題解決と更なる教育体制の充実が求められる。




