地域医療ルポ
患者の声に耳を傾け、
誰よりも早く地域の問題を解決する
香川県木田郡三木町 松原病院 松原 奎一先生
三木町は高松市の東隣に位置する、人口約2万7千人の町。香川大学農学部の何森健教授(当時)の功績で希少糖の大量生産への道が開かれ、町内に希少糖研究センターが置かれていることから、「希少糖の町」を名乗る。「日本一子どもを産み育てやすい町」を目指し、子育て支援も手厚い。
父が急逝し、代々続く診療所を継いだのは医師になってすぐの頃。父が遺したカルテには最低限の情報しかなく、患者さんの病状も生活背景もわからない状態から、若き松原先生の開業医人生はスタートした。
「自家用車がほぼない時代。昼夜問わず一日5~6回は往診に行きました。まずは患者さんのことを知るのに必死でした。」
その後、中断した研究を再開すべく徳島大学の内科に入局。大学病院では外来診療と主治医を任され、帰った後も診療所を一人で回した。入局5年目、さすがに体調を崩し、医局を出た。
松原先生が学校医の仕事を引き受けたのは、それから5年後。やるからには何か、自分なりに役に立つことをしたいと思った。
「健康診断や情報提供を機械的に行うだけでは、健康を守っているとは言えないのではないかと思いました。当時、小児成人病が話題になっており、実際に肥満の生徒が増えていました。そこで私は、生徒たちが自覚を持ち、進んで健康管理をするようになるにはどうすればいいかを考え、校長を説得して血液検査を始めることにしたのです。」
検査を行うだけでなく、全生徒を対象にデータの見方を教え、生活習慣の改善を促した。異常値があった生徒とその保護者には、栄養士同席による指導を行い、かかりつけ医につなぐ。その結果、各家庭が生活習慣を見直すようになった。やがて三木町の自治体も子どもの健康支援に力を入れ始め、多くの子育て世代が三木町へ移り住むようになった。小学生への血液検査は、今では県全域に広まっている。
松原先生の活動は、これだけに留まらない。不登校が問題になった際には、臨床心理士と学校をつなぎ、専門的な介入ができる場を設けた。発達障害の子どもへの適切な支援体制がないと知ると、自院で言語聴覚士による訓練の場を提供し、早期発見のための5歳児健診を開始。現在は、小児脂肪肝の早期発見のためのエコー検査や、健康管理のためのウェアラブル端末・スマートフォンアプリの活用を推進しているという。
起きている問題に真摯に向き合い、様々な専門家を巻き込みながら解決してきた松原先生。なぜそこまで熱心になれるのか。
「学校で話を聴いていれば、困っていることは自ずと見えてくる。私は困っている人のためになることを、誰より先にやってきただけです。この思いは、患者さんを診るときも同じ。患者さんの訴えに耳を傾け、その人の生活背景や生き方まで把握したうえで、症状をしっかりと取り除く。それが良い診療のあり方だと私は考えています。」
「良いと思ったことに、誰より先に着手することに意義があるんです」と語る松原先生。
(写真中央)言語聴覚療法室に通う子どもたちが描いた絵。
(写真右)高松琴平電鉄(琴電)が走る長閑な風景。
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