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令和3年(2021年)5月5日(水) / 日医ニュース

桜にこめた思い

 この原稿を書いているのは3月11日です。あの大震災から10年目です。私が医師会の役員に就任して初めての春でした。
 東北に近いこの地域も内陸なので津波の被害はなかったものの、停電、断水などによって、医療機関及び患者さんへの影響は多大でした。おにぎり、パンなどがコンビニ、スーパーから消えた時に、往診先の隣のパン屋さんから「先生、どうぞ召し上がれ」と頂いた食パンの味は今でも忘れません。
 そのうちにガソリンが不足し、医療関係者が病医院に通えない状態となってしまい、それを解決することが私の仕事の一つでした。
 医師会館との往復の道々には、放射線の影響など何するものと、真っ白な雪柳、真っ黄色な連翹(れんぎょう)が咲き誇っているのが目に入り、自然の無常さ、逞(たくま)しさを感じていたのが昨日のようです。そして真打ちのソメイヨシノは、あの年でも艶やかに咲き誇ったのです。
 在宅医療をやっていると、よく聞かれます。「先生、来年の桜は見られるかな?」探るような眼で私に問う患者さんにとっての年の区切りはお正月ではなく、お花見なのです。春になると必ず咲く桜に自らの命を重ねているのです。車いすに乗せてでも、元気なうちに見せてあげられたらと思います。
 「明日あると想う心のあだ桜、夜半に嵐の吹かぬものかわ」。もうすぐ開花です。

(がんこ親父)

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