第19回男女共同参画フォーラムが、「ダイバーシティを踏まえたキャリア支援」をテーマに5月17日、福島県郡山市内で開催され、日本医師会からは松本吉郎会長を始め、渡辺弘司・松岡かおり両常任理事が出席した。
フォーラムは、坪井永保福島県医師会副会長による開会宣言で幕を開け、松本会長及び石塚尋朗福島県医師会長、来賓の内堀雅雄福島県知事があいさつした。
松本会長は、今回のフォーラムにおいて初めて「ダイバーシティ」の言葉がテーマに採用されたことの意義を強調。「多様性」と訳される同語が、社会の構成員やその価値観が多種多様になるとともに、少子高齢化が進行しているこれからの日本社会において、ますます重要になるとの認識を示した。
基調講演
基調講演では、まず、斎藤美幸金水晶酒造株式会社四代目蔵元・取締役会長が造り酒屋の長女として生まれながら、大学卒業後はテレビ業界に就職し、激務の中で結婚、出産を経験したが、「子育ては女性の仕事」というアンコンシャス・バイアスにとらわれ、キャリア中断や断念を経験したエピソード等を述懐した。
その後、市内唯一の酒蔵を守るため、平成27年4月に福島に戻って蔵元に就任、各種コンテストなどで賞を獲得し奮闘する中、令和4年3月の福島県沖地震で酒蔵が全壊する等の憂き目に遭ったものの、それを機に高齢者や女性でも働きやすい酒蔵を建て直すとともに、高品質・少量生産の日本酒造りに舵を切ったことなどを紹介。福島では、特に若年女性の県外流出が続いており、地域の状況に合わせたアファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)が必要になっているとの認識を示した。
次に、加藤庸子藤田医科大学ばんたね病院脳神経外科教授は、医師であった父の影響で自身も医学の道に進み、愛知医科大学医学部の1回生として入学。卒業後、多忙な日々にあって、世界脳神経外科連盟で活動する経験を得たことが自身のキャリアにとって大きな転機になり、世界を見る目、外部から日本を見る目が養われたことなどを述べた。
また、「ダイバーシティ」という視点で考えると、ばんたね病院には常に複数人の留学生が在籍しており、途上国の医師の受け入れも積極的に行っていることを紹介。性別や年齢等のバイアスにとらわれず、各人がその能力に応じて適したポジションに就くことで、リーダーシップを取り、後進のロールモデルとなる女性医師も増えていくとの展望を述べた他、脳外科手術の未来について、(1)侵襲性の極小化、(2)ロボット手術とAI利用、(3)個々人の症状に合わせた治療の個別化―が重要になるとの認識を示した。
報告
報告では、小泉ひろみ日本医師会男女共同参画委員会委員長が、令和6・7年度の会長諮問「男女ともに活躍できる医療界を目指して」を受け、全7回の予定で協議を実施中であるとした他、委員会で行っている(1)勤務医会員数・勤務医部会設立状況等調査、(2)女性医師の勤務環境の現況に関する調査、(3)男女共同参画についての男性医師の意識調査―についてや、女性医師の役職者数の変化についても報告した。
松岡常任理事は、日本医師会女性医師支援センター事業について、「女性医師バンク事業」「再就業講習会事業」の二本柱を軸に展開していることを紹介。令和3年度には『医師の多様な働き方を支えるハンドブック』を作成して公開していることの他、昨年末に厚生労働省が「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を提示したことを受け、公募の結果、日本医師会が全国的なマッチング機能支援実施事業者として選定されたことを報告。「今後は、中堅・シニア世代の医師にマッチングはもちろん、リカレント教育に関する支援を提供していく予定である」とした。
シンポジウム
続いて行われたシンポジウムでは、新妻崇永福島県保健福祉部医療人材対策室長が、福島県の医療の現状について報告。人口は現在、約170万人で、ピーク時よりも40万人ほど減少しているとした上で、(1)六つの医療圏で構成されている、(2)人口10万人対県内医師数は全国的に見て少ない、(3)修学資金貸与制度やドクターバンクふくしまの創設、ふくしま子ども・女性医療支援センターによる医師招へい等、医師確保の取り組みを進めている―ことなどを紹介した。
中山文枝かしま病院診療部長は、「チーム医療はチーム育児へ」と題し、自身の経験を基に、出産・育児により一時的にキャリアが中断することはあっても終わるわけではないことを強調。その上で、医療職における男性育児休業制度の現状と課題について、職場の風土や上司の理解不足、経済的不安や代替要員の確保等があるとし、医療DXを利用して在宅勤務を可能にすることなどにより、男性医師の育休を可能としたことを紹介した。
また、「主体的な育児への取り組みが総合診療医としての成長につながった」との育休の当事者でもあった夫の体験談を紹介するとともに、院内パパ育休の認識が広まり、職場環境にも良い影響がもたらされたとのアンケート結果も報告した。
岩楯兼尚大原綜合病院脳神経外科部長は、夫婦共に関東出身だが、「キャリアとは人生そのものである」と捉え、ワーク・ライフ・バランスを考慮して家族ともども福島に移住したエピソードを紹介。現在の医学生の関心事もワーク・ライフ・バランスに関することであるというアンケート結果の他、自身も育休を取得し、授乳以外の全ての育児に関する事柄に主体的に携わった経験についても言及した。
その上で、育児に関わり、子ども達の成長をじかに感じられることや、育休を取ることで初めて得られる視点があり、それらは臨床の場でも生かすことができるとの認識を示した。
総合討論
総合討論では、担い手の少ない診療科の専門医取得を目指す地域枠の学生への支援や、医師不足の地方の医療機関における地域単位での協力体制の重要性が指摘された他、電子カルテをクラウド化することによって柔軟な運用を可能にするとともに、医師の働き方改革の推進にも寄与していくなどの考え方が示された。
総括を行った渡辺常任理事は、いずれのシンポジウムも本日のテーマを深く掘り下げる内容だったとするとともに、「PDCAサイクルを回すことで福島県の取り組みがどのような結果を生んだのか、他県の参考となるよう、その結果を示して欲しい」と要望。また、日本医師会として、男性医師の育休を取りやすい環境づくりを進めていきたいとした他、「キャリアとは人生そのもの」とする考え方は、医学部卒業後、自由診療の道に進んでしまう医師が増えている現状において、改めて医師を志した動機を考え直す契機にもなるとの考えを示した。
なお、次回フォーラムは令和8年4月4日に、沖縄県那覇市で行われる予定である。