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令和7年(2025年)9月20日(土) / 日医ニュース

災害医療におけるロジスティクスの重要性を再確認

 日本医師会主催による「災害医療におけるロジスティクスの重要性」をテーマとしたシンポジウムの模様が、9月6日に新潟県で行われた「防災推進国民大会2025」で日本医師会セッションとして動画配信された。
 防災推進国民大会(主催:防災推進国民会議、防災推進協議会、内閣府)は、国民の防災に関する意識向上を目的として、さまざまな省庁、地方自治体、民間企業、団体などが出展、セッションを行っている。
 日本医師会も毎年、本イベントに出展しているが、昨年度に続いて今年度も動画配信での参加となった。
 セッションは、細川秀一常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長はシンポジウムのテーマにロジスティクスを選んだ理由について、「災害医療の提供体制が整備され、より組織化されていく中で、仕組みを支えるロジスティクスを担う方々の重要性が増してきたことが挙げられる」と説明。シンポジウムの成果が実り多きものとなることに期待を寄せた。

5名の演者がさまざまな立場で講演

 引き続き行われた講演では、まず、藤原弘之岩手医科大学助教が東日本大震災での自身の経験を基に、災害時の医療支援活動を行う上での下支えとしてロジスティクスが果たす役割の重要性を指摘。ロジスティクスの専門家の育成のため、日本災害医学会が認定制度を創設したこと等を紹介するとともに、今後の課題として、日々進化する情報通信技術への対応を挙げた。
 麻田万奈日本エマージェンシーアシスタンス株式会社執行役員・営業開発部長は、災害時に各医療機関などから集められた情報を一元的に管理し、関係者の調整を図るために用いられている「広域災害救急医療情報システム」の仕組みについて解説。今後については、本年4月に30年ぶりにリニューアルされた同システムについて、災害時以外にもその用途を広げられるようにしていきたいとの考えを示した。
 広島大学大学院医系科学研究科公衆衛生学の村山華子氏は、J―SPEEDの誕生の経緯や、必要なところに必要な支援を届けるだけでなく、支援者の撤退の判断にも使われている同システムの活用事例などを紹介。「J―SPEEDは今や被災者の情報と心をつなぐツールにもなっている」として、その役割の重要性を強調した。
 坪井謙大宮医師会理事/さいたま市民医療センター内科部長・救急総合診療科長は、能登半島地震の際にJMAT調整本部で統括業務を担った経験を基に、災害時にあふれる情報の整理や宿泊先の確保の困難さなど、統括JMATの苦労を披歴(ひれき)。「いかに使いやすい情報システムを構築できるか」「ロジスティクスを担うことができる人材の育成」「全国から切れ目なく、被災地にJMATを派遣するにはどうしたら良いのか」等について、引き続き考えていく必要があるとした。
 高橋昌新潟大学大学院特任教授は、コロナ禍において新潟県が、100万人以上の医療圏でコロナに罹患(りかん)した人の死亡率を世界で一番低く抑えることができた要因として、臨床医学、基礎医学の手前で社会に働き掛けて命と健康を守る、社会医学的なアプローチが行われたことが挙げられると指摘。「この社会医学的なアプローチができる人材の育成が急務になっている」と述べるとともに、新潟大学が富山大学と共同で医学部教育の中で社会医学的な能力を育成するための取り組みを行っていることや、社会人にも勉強の機会を設けていること等を紹介した。

ディスカッションの中で演者が回答

 その後のディスカッションでは、細川常任理事からの質問に対して、演者より回答が行われた。
 「日本の災害ロジスティクスに関する進歩の状況や世界的な評価」については、藤原助教が「進歩は見られるものの、人材育成などの課題が依然として残っている」と説明。災害医療ロジスティクスの重要性が認識される中で、その制度化を求めるべきではないかとの考えを示した。
 また、世界的な評価については、日本の災害医療対応は歴史が非常に古く、世界からも注目されているとした。
 「『広域災害救急医療情報システム』に関する行政などの訓練の状況」に関しては、麻田部長が「訓練が行われない日はないほどたくさんの予約が入っている」と現状を報告。「J―SPEEDの今後の機能や改善に関する考え方」については村山氏が、現場でデータをうまく活用できる人材の育成や「広域災害救急医療情報システム」の中にJ―SPEEDを組み入れることで、オフライン環境下で入力できなかった際の対応などをその課題として挙げた。
 「医師以外も多く参加するJMATをマネジメントしていく上で気を付けていること」に関する質問には、坪井理事が「医療を行うつもりで参加しても被災者に一度も会わずに活動を終えることもあり得ることから、モチベーションを維持することに力を入れている」と回答した。
 過去の自然災害において社会医学的アプローチが功を奏した事例に関する質問には、高橋特任教授が能登半島地震の際に金沢市内に1・5次の避難所を設置した事例などを紹介。また、ロジスティクスの専門家を目指す人々に対しては、「職種を問わず、多くの方々の協力が求められており、ぜひ、それぞれの専門性を生かして参画して欲しい」と呼び掛けた。
 最後に総括を行った茂松茂人副会長は、「本日ご示唆頂いた点を今後の日本医師会のJMAT活動や災害支援活動に生かし、今後も医療の専門家集団として皆様のお役に立てるよう努めていきたい」と述べ、セッションは終了となった。

お知らせ
 「防災推進国民大会2025」日本医師会セッションの模様は、大会ホームページの他、日本医師会公式YouTubeチャンネルに掲載されていますので、ぜひ、ご覧下さい。

大会ホームページ:https://bosai-kokutai.jp/2025/so-03/
日本医師会公式YouTubeチャンネル:https://youtu.be/MkdeKp6j1WY

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