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令和7年(2025年)11月20日(木) / 日医ニュース

手数料の高騰、短期離職など「有料職業紹介事業」に関する全国共通の問題の改善に引き続き取り組む姿勢を示し、理解と協力を求める

手数料の高騰、短期離職など「有料職業紹介事業」に関する全国共通の問題の改善に引き続き取り組む姿勢を示し、理解と協力を求める

手数料の高騰、短期離職など「有料職業紹介事業」に関する全国共通の問題の改善に引き続き取り組む姿勢を示し、理解と協力を求める

 令和7年度第2回都道府県医師会長会議が10月21日、日本医師会館大講堂で「有料職業紹介事業」をテーマとして開催された。都道府県医師会からは「手数料の高騰」「短期離職」などの問題点が指摘され、松本吉郎会長は制度の改善に向けて引き続き取り組む考えを示した。
 その他、日本医師会から「令和7年 診療所の緊急経営調査」の結果を説明するとともに、組織強化に向けた協力を求めた。

 会議は城守国斗常任理事の司会により開会。冒頭あいさつした松本会長は、有料職業紹介事業をテーマに取り上げたことについて、「本年6月の第159回日本医師会定例代議員会において多数の質問を頂き、多くの先生方の懸念事項であることを改めて認識したからだ」と説明。既に四病院団体協議会と合同ワーキンググループを設置し、高額手数料や不適切事例への対応を協議していることや、厚生労働省職業安定局長に対し、適正化と規制強化を要請したことを報告するとともに、引き続き実態把握と制度改善に努める決意を示し、理解と協力を求めた。

Eグループによる討議及び全体討議

 その後、間中英夫山形県医師会長が進行役を務め、有料職業紹介事業をテーマとしたEグループ(山形県、埼玉県、富山県、岐阜県、京都府、徳島県、佐賀県、沖縄県)による討議が行われた。
 埼玉県医師会からは、有料職業紹介事業者の実態について、手数料の高騰や短期離職、ミスマッチなど共通した問題が多いと指摘。「医療分野の適正認定事業者は全国で40社あるが、それ以外の多数の業者は不透明な実態を抱えており、医療費がこうした業者に流れている現状を是正すべき」と主張した。
 また、業者によっては「医師・医学生の登録者数」等において現実離れした数値を掲げているところもあるとして信頼性に疑問を呈すとともに、認定事業者でも6カ月を超えてからの離職は返金の対象外となることから、業者が離職を助長している側面もあるとして、日本医師会から国に対して是正を求めるよう要望した。
 富山県医師会は、医療機関の経営が厳しい中で、限りある公的財源が高額な紹介料として民間有料職業紹介事業者に流出している現状を問題視。「人材確保は本来、公的機関や行政、医師会が主体となるべきであり、民間の有料職業紹介事業者任せは適正性に欠ける」と述べた。
 また、県内では医療秘書・看護学生などの入学者の減少が顕著で、人材不足が深刻化していることを報告。事務職でも紹介料が100万円に達する例もあるが、法的には違反に当たらない点も問題であるとし、その改善に向けた厚労省への働き掛けを要望するとともに、日本医師会ドクターバンクの信頼性に期待を寄せ、長期的な人材確保の仕組みづくりを求めた。
 岐阜県医師会は、急な欠員補充のために有料職業紹介を利用せざるを得ない状況を説明し、手数料が高額である点に強い問題意識を示した。
 また、20〜30%の手数料水準でも、実際には条件次第で更に上がるケースがある他、同県では苦情窓口の所在も周知されておらず、労働局も把握していないなどの制度不備を訴えた。
 その上で、医師偏在が深刻化する中、ドクターバンク、ナースバンク、県行政が一体で仕組みを構築し、情報共有と苦情相談体制を整える必要があるとして、抜本的対策の早急な実施を求めた。
 京都府医師会は、有料職業紹介事業者に頼らざるを得ない背景として、無料職業紹介やハローワークでは人材が見つかりにくく、医局から派遣してもらう仕組みも機能しなくなっている実情があると説明。一方、有料職業紹介事業者の利用は確実性があるものの、紹介された医師の質や短期離職が問題であると述べた。
 加えて、人と施設の「質のマッチング」を重視し、志向や適性を踏まえた紹介のあり方を模索すべきと提案。転職サイトが給与情報で医療従事者を操作している実態もあるとして懸念を示すとともに、若手の医師が安易に個人情報を提供しないよう注意喚起するなど、その対応策を検討すべきと主張した。
 徳島県医師会は、有料職業紹介事業者のモラル欠如と短期離職の多さが最大の問題とした上で、会員向けに実施したアンケートによると、1年以内の離職が高い割合になっていることを報告。職務の重要事項を伏せて紹介するなどの事例もあり、短期離職は職場全体の士気低下にもつながること、また、労働基準局は実態を把握しておらず、全国展開する業者の監督が難しい状況にあることなどを指摘し、その改善策として、県から補助を受けているナースバンクやドクターバンク間の情報共有を促進させる体制づくりが必要であるとした。
 佐賀県医師会は、県内の病院の85%が有料職業紹介事業者を利用しており、他県と同様に高額な手数料や短期離職の問題があることを報告。行政や医師会、看護協会によるマッチング体制の強化を求めた一方で、情報量の点では有料職業紹介事業者が優位にあることから、日本医師会が信頼できる紹介事業者と協力し、全国的な枠組みを構築するよう求めた。
 また、厚労省認定の「適正有料職業紹介事業者」について、県内会員の認知率が8%にとどまることを指摘し、認定業者の周知と信頼性の確保を要望した。
 沖縄県医師会は、離島を抱える県特有の事情もあることから、医師・医療関係職種の偏在是正に医師会が主体的に関与すべきとの考えの下、郡市医師会では銀行と連携した事業承継マッチングを進めているところもある他、県医師会でも診療科偏在への対応も含めた仕組みを検討中であることを報告。また、看護協会との連携を生かして医療従事者全体のマッチングを強化する方針を示した他、50歳以上の勤務医への開業支援や若手医師同士の紹介ネットワークなど、世代を超えた人材確保策の構築が必要との考えを示した。
 山形県医師会は、「紹介料が高額」「紹介医師の質が期待と異なる」「保証制度が不透明」といった問題点を挙げるとともに、信頼性の低い職業紹介事業者への依存が医療の質にも悪影響を及ぼしていることに懸念を示した。
 全体討議では、求職者に有料職業紹介事業者を使わないようにする方策が現時点で無い点が課題として挙げられた他、「求職者と医療機関、両方の視点に立った対応を検討する必要がある」といった意見も挙がった。

都道府県医師会からの質問に執行部より答弁

 続いて、今村英仁常任理事が事前に寄せられていた質問に回答するとともに、これからの対応の方向性を詳説した。
 同常任理事はこれまでも審議会等の場で手数料等の問題提起を行い、各種改正につながったことや、医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度への参画等、日本医師会の取り組みを説明。今後については、(1)会員・医療機関・求職者に対する広報、周知活動の強化、(2)悪質業者への対策、(3)更なる規制強化、適正化に向けた国への要求、(4)公的職業紹介の活用(オンライン・ハローワークの周知等)、(5)好事例の収集・横展開、(6)日本医師会ドクターバンクと地域ドクターバンクの業務提携―等を行っていくとして、引き続きの協力を求めた。
 その後の中央情勢報告では城守常任理事が、「令和7年 診療所の緊急経営調査」を基に、医療法人・個人立共に診療所の直近の経営状況が減収減益である現状を詳説。医療法人の約4割が赤字、個人立では経常利益が約2割減少した背景について、物価高騰・人件費の上昇に加えて、コロナ補助金・診療報酬上の特例措置等が廃止となったことを挙げた。
 その上で、「次期診療報酬改定での大幅な手当と、早期の補助金並びに期中改定による緊急かつ最大限の支援が不可欠である」と強調。国への発言力を高めるためにも、日本医師会の組織強化が必要だとして引き続きの協力を求めた。
 最後にあいさつした松本会長は、「本日の会議を通じ、有料職業紹介事業の問題は全国で共通した課題になっていることが再認識できた」と述べ、各都道府県医師会に実態把握と情報提供への継続的な協力を要請するとともに、互いに支え合う姿勢でこの問題に取り組んでいくよう呼び掛け、会議は終了となった。

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