閉じる

令和7年(2025年)9月20日(土) / 日医ニュース

医療機関の窮状を改めて訴え、診療報酬並びに補助金による緊急の対応を要望

長島常任理事・茂松副会長・江澤常任理事長島常任理事・茂松副会長・江澤常任理事

長島常任理事・茂松副会長・江澤常任理事長島常任理事・茂松副会長・江澤常任理事

 中医協総会が8月27日、都内で開催され、次期改定に向けて、医療機関等の経営状況に関する2回目の議論が行われた。
 その中で江澤和彦常任理事は、医療機関の窮状を改めて訴え、診療報酬並びに補助金による緊急の対応を要望した。

 当日の総会では、「医療を取り巻く状況」の2回目の審議が行われた。
 4月23日に行われた1回目の審議の際に、長島公之常任理事が「インフレの進行状況を鑑みると、2023年度の概況を示す資料では不十分」と指摘し、現状に近い資料の提出を求めていたが、今回は、厚生労働省事務局より異なる切り口による新たな関連資料として、2024年度改定前の2023年の医療法人経営情報データベースシステムによるデータや医療機関のファクタリングの動向等が示された。
 議論の中で、江澤常任理事はまず、「2024年以降、コロナ補助金も廃止され、同時に物価高騰・賃金上昇も相まって、医療機関の経営状況は2023年より2024年、更には2025年と、より一層厳しさを増している。直近の病院、診療所の経営状況は極めて深刻であるという認識を中医協全体で共有すべき」と主張した。
 その上で、同常任理事は今回示された資料に関して、(1)一定の目安とされる自己資本比率30%を切る医療機関が約3割程度、更に深刻で危険な状態にある自己資本比率が0%以下、すなわち債務超過と想定される医療機関が1割程度存在し、大変危険な状況にある、(2)現預金回転期間は0・0から2・0あたりの病院が多くあるが、このことは自己資本の中でも流動資産がいかに低いかを表しており、自転車操業でどうにかやりくりをしている医療機関の窮状が分かる、(3)ファクタリングの状況は2023年から2024年に伸びているが、ファクタリングを利用するということは、既に金融機関からの融資に支障を来していることを意味しており、金融機関よりも利息の高いファクタリングに頼らざるを得ないという厳しい状況の表れである、(4)一般的に融資の最長期間が20年であることを考慮すると、長期借入金の返済が予定どおりにはいかず、短期の運転資金の借り入れでどうにかしのいでいる実態が多いことが分かる―と指摘。「今回示されたデータにより、医療機関経営は過去に経験が無い厳しい状況にあることが明白となった。診療報酬や補助金による大幅な支援を緊急に手当てしなければ、医療崩壊という取り返しのつかない事態になる」として、早急な対応を求めるとともに、厚労省事務局に対して、医療機関の窮状がより明らかになるような資料の提出を求めた。

在宅医療参入へのハードルを引き下げるべき―江澤常任理事

 その他、この日は「在宅医療(その1)」並びに、福岡資麿厚労大臣からの諮問「スマートフォンでのマイナ保険証の利用開始に伴う資格確認方法の所要の見直し」に関する議論が行われた。
 「在宅医療」に関する議論の中で江澤常任理事は、在宅医療の需要は2040年に掛けて66の二次医療圏で5割増し以上にもなる一方で、在宅医療を担う医療機関は伸び悩んでいることに言及。その背景には在宅医の高齢化、継承の不透明化など、さまざまな課題があるとした。
 また、全ての医療機関が在宅医療に取り組む必要はないが、在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、それ以外の医療機関などと共に、総力を挙げて支える必要があると強調。そのためには、在宅医療への参入のハードルを引き下げる必要があり、特に、医師1人で24時間365日対応をすることは最大のハードルとなっているとして、「24時間対応や緊急往診対応などの体制を地域で整えることが大切であり、在宅医療に参入しやすくするためにも、施設基準や要件は高めるべきではない」と主張した。
 更に、これまでの診療報酬改定に関して、訪問回数、居住場所、すなわち同一建物であるか否かや居住場所の規模についての議論に偏り過ぎており、医学的見地からのサービスの質に関する議論が十分にできていなかったのではないかと指摘。「居住場所によって患者の自己負担が異なることは、サービスに対する報酬設定として問題ではないか」と述べるとともに、削りやすいところから手を付けることで適正化する考え方は慎むべきであり、適正化や減算を実施した場合、その効果を検証していく必要があるとした。

全ての医療機関がスマホ搭載のマイナ保険証に必ずしも対応可能ではないことなどの周知を要請―長島常任理事

 スマートフォンでのマイナ保険証利用開始に関する諮問についての議論では、まず利用開始に当たっての注意点や9月19日から利用可能となることの他、今回の諮問はスマホでのマイナ保険証利用開始に伴い、この方法で読み取れず資格確認できなかった場合、患者がその場でマイナポータルにログインし、表示された資格情報を確認することで代用できるようにするためのものである旨の説明があった。
 その後の議論を経て、即日、答申が取りまとめられ、小塩隆士中医協会長から福岡厚労大臣(代理:間隆一郎保険局長)に手交された。
 答申を受け取った間保険局長は「引き続きマイナ保険証の利用環境の整備に取り組んでいきたい」と述べるとともに、速やかに告示の準備をする考えを示した。
 議論の中で、長島常任理事は「スマホへのマイナ保険証搭載は、患者・国民にとっての利便性向上に加え、マイナポータルでログインし、自分の医療情報の把握が大幅に簡単になる、という大きなメリットがあり、大いに推進すべきであるが、拙速(せっそく)に進め、国民や医療現場に混乱・不信を招いては、かえって大きな不利益となる」と指摘。その上で、スマホでのマイナ保険証利用に当たり、(1)9月19日から、スマホ利用がシステム上可能になるとしても、当面の間、実際に利用できる医療機関は全国でもごく一部である、(2)スマホ対応医療機関でも、何らかの事情で読み取りに失敗した場合、他の身分証明書が無いと医療機関では確認できないため、スマホ搭載のマイナ保険証を初めて利用する場合には、必ずカードのマイナ保険証を持参してもらう必要がある、(3)マイナ保険証をスマホに搭載させるのは手間が掛かるため、スマホを利用する患者は、必ず来院前に手続きを済ませてもらう必要がある―ことを説明し、国に対して丁寧かつ確実な周知を求めた。
 また、この仕組みを導入する手順やシステムがうまくいかなかった場合の対応については、「国が分かりやすい資料を提供するとともに、相談窓口を設置することも必要」と述べた他、保険者に対しても、被保険者への周知と支援を行うよう要請した。
 更に、顔認証付きカードリーダーや資格確認専用端末を早期に導入した医療機関では、保守期限が残り1年程度となっていることから、今後、機器を更新する際にはさまざまな費用や業務負担が生じることが予想されると指摘。「これらの費用等についても国は十分な補助を行うべきである」と述べるとともに、関連業者・業界に適切に対応するよう働き掛けを求めた。

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる