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令和7年(2025年)10月5日(日) / 日医ニュース

「地域に根ざした医師会共同利用施設のあり方~2040年問題が及ぼす影響と対策」をメインテーマに開催

「地域に根ざした医師会共同利用施設のあり方~2040年問題が及ぼす影響と対策」をメインテーマに開催

「地域に根ざした医師会共同利用施設のあり方~2040年問題が及ぼす影響と対策」をメインテーマに開催

 第31回全国医師会共同利用施設総会(以下、総会)が8月30、31の両日、主催日本医師会、担当群馬県医師会により、「地域に根ざした医師会共同利用施設のあり方~2040年問題が及ぼす影響と対策」をメインテーマに、群馬県高崎市内で開催された。
 日本医師会からは、松本吉郎会長を始め、角田徹副会長、黒瀬巌常任理事が出席。各医師会等から多くの参加者を得て、活発な討議が行われた。

第1日

 総会1日目(30日)には、まず、西松輝高群馬県医師会副会長が開会を宣言し、松本会長、須藤英仁群馬県医師会長の他、来賓として山本一太群馬県知事、曽根光広高崎市副市長(富岡賢治高崎市長代理)、釜萢敏参議院議員があいさつを行った。
 松本会長はあいさつの冒頭、本間博岩手県医師会長/医師会共同利用施設検討委員会委員長や黒木康文鹿児島県医師会常任理事/医師会共同利用施設検討委員会副委員長、須藤群馬県医師会長を始めとする群馬県医師会関係者には、総会の企画立案等と実施に係る多大な尽力に対して感謝の意を表明。医師会共同利用施設については「医師会活動の原点」と強調した上で、患者や住民の生命と健康を守るため、医療から介護まで多方面にわたって貢献する努力を続けることが肝要だとした。

松本会長特別講演

 引き続き、松本会長は「日本医師会の医療政策」と題して特別講演を行い、(1)今後の医療の需要と供給、(2)新たな地域医療構想に対する日本医師会の考え方、(3)新たな地域医療構想と医療計画の検討内容、(4)現在の医療機関の危機的状況と2040年に向けた対応―等をテーマとして、日本医師会の考えなどを説明した。
 (1)では、今後は医療従事者が減少する一方、85歳以上の高齢救急搬送や在宅医療の需要が増加するとした他、在留外国人の増加に伴う諸課題について指摘した。
 (2)では、更に進む人口変動と医療の需給変化には、地域における医療機能の分化と連携で対応するとの考えの下、新たな地域医療構想を議論していくと主張。更に、日本の医療は①国民皆保険②現物給付③フリーアクセス―により、いつでもどこでも誰もが最善の医療を受けられるとして、これをしっかり守っていくべきとした他、社会保険料の引き下げや消費税などの減税は医療費の削減や保険給付範囲の縮小につながるとの懸念を示した。
 (3)では、厚生労働省の「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」の主要論点である①医業経営問題②地域医療構想区域の設定③必要病床数④医療機関機能―に関して、日本医師会の主張内容を説明。①では、「再編ばかり考えても医療機関の経営が成り立たなければ何の意味もない」として、健全な経営ができるようにすべきと主張した。②では、圏域の見直しに当たり都道府県域を超えて一体的に考えることも必要だと指摘。③では、足元の状況を加味した、より精緻(せいち)な推計が求められるとした他、④では、「数値基準のみで判断すると非常にゆがんだものになる」とした上で、各地域の実態に即して考える必要があると強調した。
 (4)では、多くの関係者が参画する地域連携により、地域を面とした医療・介護の提供体制を築き、充実させていく必要があるとした他、最低賃金の引き上げや人事院勧告等に触れ、「世の中では5~6%の賃上げが行われており、これに対応できるよう診療報酬を引き上げることが基本だ」と強調。具体的には「これまでベースアップ評価料で引き上げた分はしっかりと確保した上で、更なる引き上げ分は基本診療料で手当てすべき」とするとともに、期中改定の必要性も訴えた。
 続いて、滝澤貴昭全国医師会共同利用施設施設長検査健診管理者連絡協議会長/赤磐医師会長が、令和6・7年度の同協議会の活動について報告。その後、三つの分科会に分かれてシンポジウムが行われた。

第一分科会(医師会病院関係)〔座長:黒木鹿児島県医師会常任理事/医師会共同利用施設検討委員会副委員長〕

 第一分科会では、都丸浩一伊勢崎佐波医師会副会長(群馬県)が「当院の今後のあるべき姿を考える~地域の中で目指すべきもの」をテーマに、伊勢崎佐波医師会病院では検査誘導システム等の導入による健診の効率化の他、検診車による巡回検診や健診データ等のオンライン化を進めていることを紹介。今後は①労働力の確保②入退院支援センターの拡充③在宅医療との連携強化④経営安定化―を通じて、高齢化社会に向けて「選ばれる施設づくり」を目指すとした。
 深田悟鳥取県中部医師会理事/鳥取県中部医師会立三朝温泉病院長(鳥取県)は「三朝温泉病院のクラウドファンディングの挑戦と成果―温泉施設の改修を目指して―」をテーマに、老朽化が進んだ施設の改修に向けて、同病院でクラウドファンディングを実施した結果、454名の支援者から目標額500万円を大きく上回る約943万円の支援を得たことを報告。今回の取り組みは資金調達だけでなく、地域との信頼関係の可視化や職員の意識改革にもつながったことが最大の成果だとした。
 石和俊大分県医師会副会長/大分市医師会副会長/大分市医師会立アルメイダ病院副総院長は「大分市医師会立アルメイダ病院の現況と今後いかに"治し支える医療"を展開するか」をテーマに、大分市では高度急性期・急性期病床が過剰な一方、回復期・慢性期病床の不足が課題となっており、隣接医療圏と連携した医療体制の構築が不可欠となっていることを報告。今後は同病院の経営安定化のため、看護師の離職・確保対策による休床病床の回復や訪問看護ステーション等を活用した在宅医療の推進体制を整備していくとした。
 河野嘉文霧島市立医師会医療センター病院長(鹿児島県)は「公設民営医師会病院の新築移転 滑り込みセーフ? アウト?」をテーマに、資材価格や人件費の高騰で建築・移転費用が増えた他、医業費用等も増加したため、同センターの黒字化は困難となっている現状を報告。市民の期待に応える診療科や施設設備の充実等が求められるなど、公的病院特有の経営の難しさにも触れ、地方都市の医療提供体制の維持には公設民営の指定管理者制度が有効であるとした他、病院経営が赤字でも繰出金を確保する自治体の覚悟や、従来の医療が当然続くものと考える国民の意識改革も求められるとした。

第二分科会(検査・健診センター関係)〔座長:黒瀬日本医師会常任理事〕

 第二分科会では、田村仁高崎市医師会副会長/高崎・地域医療センター業務執行理事(群馬県)が、「検査健診センターにおける地域住民のための、一体感のある連携(自治体・医師会・医療機関)」をテーマに、同センターでは①健診②臨床検査③休日夜間診療―を業務の3本柱としており、特に乳がん検診ではデジタルデータの一元管理と読影委員会での集中的な判定により診断精度が向上していることを紹介。健康寿命の延伸には自治体・事業所健診が重要であり、健診施設間の均てん化と精度管理の維持が肝要だと指摘した他、今後は自治体・医師会・医師会員との一体感のある連携を深め、更に発展させていく考えを示した。
 齊藤典才石川県医師会理事は「地域に根ざした医師会共同利用施設のあり方~2040年問題が及ぼす影響と対策」をテーマに、石川県医師会臨床検査センターで実施した業務のICT化などの具体的な業務改善事例に言及し、その基本的な考え方を説明。今後も地域医療を支える使命を果たしていくため、業務改善に向けて課題を継続的に発見し、問題が顕在化する前に対処することによって、より質の高いサービスの提供を目指すとした。
 水谷暢秀静岡市静岡医師会副会長/静岡市静岡医師会健診センター所長(静岡県)は「静岡市静岡医師会健診センターの現状と2040年問題への取り組み」をテーマに、不採算の検体検査部門を廃止する一方、地の利を生かした健診センターとCT・MRIを核とする健診センターを整備した結果、受診者が増え、コスト増を上回る収益を得たことを紹介。今後は健康寿命延伸の観点から、退職者の健診受診率の改善など、高齢者の健康管理に資する取り組みを検討しているとした他、優しさと思いやりをもって地域住民の健康づくりを応援していくとする経営理念を披露した。
 山本匡広島市医師会長/広島市医師会臨床検査センター所長/広島県医師会理事は「臨床検査センターを取り巻く環境変化と今後の取り組み」をテーマに、医療機関の縮小に伴う検査依頼数の減少や保険点数単価の長期的な下落など、同センターを取り巻く環境の変化を説明。今後の対応策として、県境をまたぐ医師会間の相互協力による経費削減や一部検査の外注、地元の民間検査センターとの集荷業務に係る戦略的連携などに触れ、事業継続への強い決意を示した。

第三分科会(介護保険関連施設関係)〔座長:本間岩手県医師会長/医師会共同利用施設検討委員会委員長〕

 第三分科会では、土田昌一秋田県医師会理事/由利本荘医師会理事/由利本荘医師会病院副院長が「介護医療院開設二年が経過して―現状と課題、そしてその展望―」をテーマに、2022年度診療報酬改定の影響で年間収支のマイナスが見込まれたため、2023年4月より療養病床を介護医療院に移行した結果、年間収支は黒字になったことを報告。今後、各種加算を積極的に取得する他、業務の効率化等を通じて、地域に選ばれる施設を目指すとした。
 細田弥太郎水戸市医師会長(茨城県)は「水戸市医師会訪問看護ステーションみとの取組み~2040年を見据えた医療と介護の在り方~」をテーマに、「訪問看護ステーションは2040年に向けた地域共生社会を実現するために不可欠な社会資源の一つである」とした上で、今後の課題として質の高いサービスの提供や高齢者・市民・社会的ニーズへの対応、積極的な人材確保、待遇の改善等が必要だと指摘した他、プラチナナース(定年退職前後の看護職)やタブレット端末の積極的な活用により更なる発展を目指すとした。
 佐々木聡東京都医師会理事と土屋淳郎東京都医師会理事/全国医療介護連携ネットワーク研究会会長は「東京都在宅医療推進強化事業におけるMCS機能強化の共同開発について」をテーマに、情報共有等を行うICTシステムであるMCS(Medical Care System)の機能強化に向けて、東京都医師会が音頭を取って意見を集約し、各地区医師会による共同開発を進めたことを報告。今後の医師会共同利用施設のあり方として、事業も含めた医師会同士の協働は検討に値するとの考えを示した。
 久次米健市神戸市医師会副会長(兵庫県)と松尾玲子神戸市医師会理事/神戸市医師会在宅医療・介護連携推進会議委員長(兵庫県)は「神戸市医師会在宅医療・介護連携支援センターの紹介」をテーマに、ICTの活用や包括的支援体制を担う専門職の育成支援の他、行政、医療・介護関係者、地域住民等と協働し、地域の実情に即した地域包括ケアシステムの構築を目指している現状を報告した。

第2日

 2日目(31日)には、鶴谷英樹群馬県医師会理事より、群馬県内の共同利用施設が紹介された後、各分科会からの報告、黒瀬常任理事を座長とした全体討議が行われた。
 その中で黒瀬常任理事は、日本医師会が本年6~8月に実施した衛生検査所からの集荷料等の請求に係る調査の結果について報告を行った。
 最後に総括を行った角田副会長は、各分科会で地域に根ざした医師会共同利用施設だからこそできる活動が発表されたことに触れ、「2040年に向けて、今後も会員のため、地域住民のために貢献して頂きたい」と述べるとともに、本総会で共有された情報や成果をそれぞれの地域が抱える問題の解決に役立てるよう呼び掛けた。
 午後には施設見学も行われ、全日程が終了した。
 なお、次回の総会は、宮崎県医師会の担当で令和9年9月11、12の両日に開催される予定となっている。

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