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令和8年(2026年)6月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

洗車をすれば雨が降る

 私は洗車をするのが大好きです。机の上はいつも雑然としているのに、しばしば自分で車を洗いたくなります。しかし、洗車中に必ず雨が降り出すのです。妻は、私が洗車を始めると、無言でバルコニーに干した洗濯物を取り入れますし、外出する家族は、私の洗車姿を見ると必ず傘を持って出掛けます。私はそれを見ていつも何だか不快な気持ちになります。「こんなカンカン照りなのに雨なんか降るわけがない!」とつぶやきます。しかしながら、風雲急を告げ、土砂降りになるのです。
 そこで、「洗車をすれば雨が降る」現象を検索してみると、実感している人がたくさんいることが分かります。いわゆる「マーフィーの法則」と呼ばれ、せっかく洗車したのに雨が降るというネガティブな出来事が、記憶に強く刻まれる心理的なバイアス(ネガティビティバイアス)という解釈です。さらに、日本は雨の日が年に100日もあるそうで、洗車をすれば雨が降るのは、確率的に妥当なことだとの意見もあります。なるほど、説得力がありますね。
 また、私にはこんな経験もあります。少し遠方へ釣りに出掛けた往路の田舎道で、鹿に出会うとその日は必ずボウズ(魚が一匹も釣れないこと)になります。釣り仲間の間で言われているジンクスでもあり、私自身も出会えばいつもボウズです。これもネガティビティバイアスなのでしょうか。
 しかしながら、私の場合、洗車中に雨が降り出す確率は365分の100をはるかに超え、前述の鹿との出会いの件に至っては100%の確率です。こうなると単なる心理的なバイアスでは説明しきれないのではないでしょうか。そして私は医師であり、また生命科学者の端くれでもあります。これらの現象を「単なるマーフィーの法則でした」と簡単に片付けるわけにはいかないのです。もっと科学的な考察が必要です。これは医師会報ですから尚更ですね。
 発生機序を解明するため、私は、これらの現象が起こる際の気圧や湿度などの気象の変化に注目しました。気付かないような微小な変化の中に、私を洗車に向かわせ、鹿が山から降りて道路に出る理由があると考えます。私の場合は、例えば低気圧や高湿度という環境変化がストレスとなり、大脳辺縁系に作用し自分では意識できない情動の変化や自律神経の変調を来す。これが洗車という自分にとって心地の良い行動に誘導している、との仮説はどうでしょうか。
 また、鹿でも同様の理由で気分の変調が起き、いつものように山中で餌を喰う気がせず、山から下りてもっとおいしい餌を喰いたいと思う。そして、そんな日は海中でも魚の機嫌が変わり、いつもの釣り餌を喰ってくれない。
 どうでしょうか。マーフィーの法則のような心理的バイアスだけではなく、何か医学的生理学的な理由がきっとあるはずです。過去にはマーフィーの法則を科学的に実証し、イグ・ノーベル賞を受賞した人がいます。ひょっとして私も......かと今ほくそ笑んでおります。

大阪府 大阪府医師会報 Vol.429より

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