令和8年(2026年)6月20日(土) / 日医ニュース
医療施設外での救護行為を巡る法的課題について様々な立場から知見を共有
いわゆる「善きサマリア人法」について考える公開シンポジウム
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松本会長
松本会長
| 「いわゆる『善きサマリア人法』について考える公開シンポジウム~『お医者さんはいませんか?』~」が5月24日、日本医師会館大講堂で開催された。 当日は、医療施設外で急病人に遭遇した医療従事者や市民による救護行為を巡る法的課題について、法学、国民、立法といった様々な立場からの講演の他、参加者を交えた活発な討議が行われた。 |
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本シンポジウムは、日本医師会医事法関係検討委員会において進められている救護者保護の法制化に関する議論等を広く共有するとともに、医療施設外で急病人に遭遇した医療従事者や市民による救護行為を巡る法的課題について、多様な立場から理解と検討を深めるために開催されたものである。
当日は、渡辺弘司常任理事の司会によりシンポジウムは開会した。
冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、いわゆる「善きサマリア人法」について、善意の救護行為に法的責任を問わない仕組みであり、欧米では普及する一方、日本では未整備となっていることに言及。この問題は対象範囲や社会的影響など、課題も多く、医療関係者のみならず国民全体で議論すべきテーマでもあるとして、今回のシンポジウムが様々な立場から、人の命と善意の問題について深く考え、相互に理解し合うための有意義な場となることに期待感を示した。
引き続き、問題提起として、森本紀彦医事法関係検討委員会委員長/島根県医師会長が、航空機内等でのドクターコールについて、「専門外での対応不安や訴訟リスクへの懸念から、名乗り出ることをためらう医師も多いが、実際には責任主体は航空会社にあり、故意や重過失が無い限り個人が訴えられる可能性は極めて低く、民法698条の緊急事務管理により善意の救護行為は保護される」と強調した。
また、機内救護は救急専門医などの地上からの支援体制も整備されており、最終判断は機長が担うことになるが、救急現場での善意の行為を広く保護する法整備の必要性が学会等から提言されていることなどを報告。国民的合意形成と教育・広報を通じて理解を深め、その制度化を目指すべきとの考えを示した。
指定発言として、田名毅沖縄県医師会長は、JALドクターとしての自身の経験と他医師の事例を踏まえ、機内急病人対応の実例として、(1)離陸前の胸痛患者では速やかに搬送を判断、(2)飛行中の低血圧例では経過観察の上で目的地まで運航継続、(3)到着前の重篤例では脳疾患を疑い呼吸補助の上、緊急搬送を優先―したケースを紹介。機内という医療資源が限られる中では、複数の医療者の協力と適切な判断が重要であり、最善を尽くす姿勢が求められるとした。
森村尚登日本救急医学会・日本賠償科学会合同委員会委員長は、同委員会が令和5年12月に公表した救護者保護の法制化に関する提言に基づき、善意の救護者保護の考え方や立法に向けた課題を解説。欧米では他者支援のうち、作為的な善意の救護を保護対象とし、制度化が進む一方、日本では緊急事務管理の存在や、立法事実の乏しさなどを理由に成立してこなかったが、立法化を目指すとしても医師法上の応招義務との関係や、重過失または故意ではないことを立証する責任の負担など、課題は多いと指摘した。
また、救護時の法的リスクへの不安が医師や市民の行動を萎縮させている実態も示し、こうした背景を踏まえ、宗教ではなく、利他性や連帯を基盤とする行為規範としての法整備を提案。「故意・重過失を除き責任を問わない免責規定を柱に、まずは医療従事者を対象とし、将来的には国民全体へ拡張することも考えられるのではないか」と指摘した。
続いて、法学、国民、立法の立場から、各演者が講演を行った。
樋口範雄東京大学名誉教授は法学の立場から、「善きサマリア人法」の背景と日本における意義を、聖書の寓話(ぐうわ)を踏まえて解説した。欧米では宗教教育を基盤に善意の救護が社会に浸透しており、米国などでは救護義務は課さず、善意の行為に対する責任を軽減する法制度が整備されていると指摘。一方、日本に関しては、「緊急事務管理など一定の保護はあるものの、内容の理解不足や重過失の概念の不明確さから、医師が訴訟リスクを懸念し対応をためらう実態がある」と述べた。
その上で、救護義務の強制は実効性に乏しく、かえって回避行動を招く恐れがあるとして、倫理に基づく自発的行動を尊重しつつ、善意の救護については過失の軽重を問わず広く免責する明確な法整備が望ましいと主張。医師に限らず、医療従事者を対象とした制度設計や、教育を通じた理解促進の重要性にも言及した。
隈本邦彦江戸川大学名誉教授は国民の立場から、「善きサマリア人法」の議論と医師のプロフェッショナル・オートノミーの関係性について詳説。医師は高い社会的信頼を得ている一方、訴訟や批判への懸念から善意の行為でも萎縮する心理があると指摘した。他方で、実際には患者は医療の不確実性を一定程度受け入れているとした上で、トラブルの要因は価値観の不一致や情報の共有不足が多いとし、インフォームド・コンセントを通じた意思決定を共有することや、患者の価値観を尊重する医療の意義を強調した。
また、プロフェッショナル・オートノミーを基盤とする代表的な制度の例である医療事故調査制度では、報告率のばらつきや再発防止へ向けた教訓の未活用が課題となっていることから、法整備に加え、医師が倫理と自律性を発揮し、社会の信頼に応え続ける姿勢が求められているとして、その重要性を強く訴えた。
古川俊治参議院議員は立法の立場から、現行の緊急事務管理で対応可能とする見解があることに対して、契約の成立可能性や立証責任の所在などから必ずしも十分な保護にはなっていないと指摘。機内で医師が対応した場合には訴訟リスクへの心理的負担に加え、状況によっては、医師賠償責任保険の適用外となる可能性や弁護士費用の自己負担、長時間対応による翌日の業務への影響など、実際には不利益も大きいと説明した。
一方で、議員立法として立法化を目指す場合には全政党の合意と明確な立法事実が必要となるが、免責拡大が救命率向上につながるという実証的根拠は十分ではなく、(1)救命率の差はAEDの使用や訓練経験の有無に強く依存する、(2)一般市民が対応しない理由は法的責任より技能不足が大きいのではないか、(3)機内事案では医療従事者が対応の大半を占め、限られた資機材では救命効果にも一定の限界がある―などの分析結果もあることを提示。以上から、法整備には一定の心理的促進効果は期待できるものの、制度設計や効果の裏付けには課題が多く、慎重な検討と、積極的な救命措置が救命率を上げるというエビデンスの蓄積が不可欠であると結論付けた。
その後、総合討論が行われ、演者と参加者との間で、「訴訟リスクや保険のカバー範囲」「医学生・若手医師への教育の必要性」などについて、活発な議論が行われ、茂松茂人副会長の総括により閉会となった。
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日本医師会では、5月24日に開催した「いわゆる『善きサマリア人法』について考える公開シンポジウム」の模様を収録した動画を本会ホームページに6月中旬頃から掲載します。ぜひ、ご覧いただき、動画の最後にありますフォームからご意見をお寄せ願います。 https://www.med.or.jp/people/info/seminar/012710.html |

日本医師会では、5月24日に開催した「いわゆる『善きサマリア人法』について考える公開シンポジウム」の模様を収録した動画を本会ホームページに6月中旬頃から掲載します。

