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平成27年(2015年)9月5日(土) / 日医ニュース / 解説コーナー

地域や患者ニーズに応える医療機関を公平に支えそれぞれの機能コストを適切に反映した診療報酬体系を目指す

平成28年度診療報酬改定に向けて、今秋から中医協での議論が活発化するのを前に、今号では横倉義武会長に、次期診療報酬改定に対する日医の考えを改めて説明してもらった。

 前回、平成26年度の診療報酬の改定は、消費税率が8%に引き上げられる時期とも重なっていたため、保険料・患者負担という国民負担が増えることのないよう調整がなされたこともあり、診療報酬本体でわずかに0.1%増という大変厳しい結果となりました。

 平成28年度の改定においても、消費税引き上げが延期され、国と地方の長期債務残高が1,000兆円を超えるという国家財政が厳しい状況にありますので、増加する医療費の適正化を図ろうとする考え方が必ず出てきます。

 このため、来年度の予算編成に向けては、年末までに改定財源をめぐって財務省などとの大変厳しい攻防になると考えています。

 医療費の十分な確保は必要ですが、財政危機に直面しているギリシャのようにハードランディングになることなく、国民の求める医療を過不足なく提供できるよう改革を進め、ソフトランディングをしていくことが必要です。

 6月に閣議決定された「骨太の方針2015」では、社会保障費の伸びについて、「社会保障関係費の実質的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(1.5兆円程度)となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む。この点も含め、2020年度に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引上げとあわせ行う充実等に相当する水準におさめることを目指す」と表現されています。

 当初示された「素案」から、文中に「目安」という言葉が入り、自民党・厚生労働関係議員の幹部会は、「『基調の継続』はあくまでも『目安』であり、『水準』はあくまでも『目指す』ものであるため、社会保障関係費の上限を課しているわけではなく、一定の柔軟性があるものだ」と強調しており、かつて行われたような社会保障費の機械的削減は行われないものと考えています。

 社会保障と経済は相互作用の関係にあり、老後が不安であるという思いを持つ国民に安心を示すことは、経済成長を取り戻すための出発点であると考えています。今まで、日本では社会保障の安定によって健全な社会がつくられてきました。今後も、超高齢社会に向けて、社会保障を充実させて国民の不安を取り除き、より一層安定した社会をつくっていくことが求められます。

 このため、我々医療側からも、人口が減少していく中で、国民皆保険を堅持していくため、財政主導ではなく、例えば生涯保健事業の体系化によって、平均寿命と約10年の差がある健康寿命を延伸していくことや、学会が策定する診療ガイドラインにも症状に応じてコスト意識をもった処方を掲載する等、過不足ない医療提供ができる適切な医療を提言していかなければなりません。

医療・介護の財源確保は経済成長にもつながる
 国民が適切な医療を受けるためには、過不足のない診療報酬の確保が重要です。また、診療報酬は国民皆保険体制の中で、実質的に医業経営の原資を司るものであり、医業の再生産の可能性を左右し、ひいては医療提供体制の存続に直結します。
 わが国では、アベノミクスの成果により、2010年と比べて2014年は、物価は消費税率の引き上げも含めて2.8%、賃金は2.4%と大きく上昇しています。その一方で、医療機関の費用構造を見ると、人件費の割合は2000年の50.2%から、2012年は46.4%へと大きく減少しており(図)、ものの値段の上昇によって人件費が圧迫されています。また、2000年以降は製造業の1人当たり平均給与は上昇しているものの、医療・福祉業では下落傾向にあります。このような中で、ものと技術とを分離した適切な資源投入を諮ることに重点を置いた上で、医療・介護の財源を確保し、医療機関を経営的に安定化させることができれば、医療・介護関係従事者には給与等の形で還元されますし、医療・介護分野は、特に地方において雇用誘発効果が高いと言われていますので、地方から経済を活性化させ、ひいてはわが国の経済全体の成長へとつなげていくこともできると考えています。
 日医としましては、今後も政府与党などに対して、これらのことを繰り返し説明し、適切な医療財源の確保を求めていきたいと考えています。

図:1人平均月間現金給与総額と医療機関の従事者数

図:医療機関の費用構造の推移

図:雇用誘発係数

薬価財源等を活用し医療技術の充実を
 平成26年度診療報酬改定は、国民との約束である社会保障・税一体改革に基づき、2025年のあるべき姿に向けてその第一歩を踏み出したものでした。平成28年度改定は、改革を継続する次の一歩として、平成30年度の医療と介護の同時改定に向けて襷(たすき)をつないでいかなければなりません。
 前回の改定では、在宅医療における不適切事例の適正化が図られた他、7対1看護基準の見直しに伴う急性期後の受け皿づくりの整備のため、かかりつけ医機能、有床診療所、在宅医療への手当て等、地域に密着した医療を提供したことに対する適切な評価が行われました。
 限られた財源の中でも、超高齢社会に対応する上での最重要課題である地域包括ケアシステムの構築に向けて意義のある改定がなされたものと思っており、今回の改定においても、その方針は堅持されるべきものであると考えています。
 病床機能の区分については、日医・四病院団体協議会合同提言「医療提供体制のあり方」を基本とし、病期に応じて「高度急性期病床」「急性期病床」「回復期病床」「慢性期病床」に病床区分され、各地域それぞれの医療資源等を踏まえて、地域の実情を十分に反映し、柔軟に機能分化を進めることになります。どのような機能を選択しても、地域や患者ニーズに応えている限り経営が安定して成り立つよう、体制構築に取り組む全ての医療機関を公平に支える、それぞれの機能のコストを適切に反映した診療報酬体系が極めて重要です。
 かかりつけ医機能の評価に関しては、前回の改定で、その評価のために、「地域包括診療加算」と「地域包括診療料」が創設されました。これは日医がかねてからその評価を強く求めてきたものであり、かかりつけ医機能の評価の道筋をつくることができたと考えています。かかりつけ医を受診することにより、患者さんがそれぞれの症状に合った、ふさわしい医療を受けられるようになり、適切な受療行動、重複受診の是正、薬の重複投与の防止等により医療費を適正化することも期待できます。
 前回は限られた改定財源であったこともあり、厳しい算定要件となりましたが、今回はその評価の拡充等を更に強く求めていきたいと思います。
 次に、薬価改定財源の診療報酬本体への充当についてですが、もともと、薬価差は、制度発足時に十分な技術評価ができなかったことから生じたものであり、その不足分に相当する潜在的技術料であったことや、「医薬分業」の推進とも密接に関連することを踏まえつつ、薬価財源等を活用し、技術を充実させることにより、医療の安全・安心を図ることが必要です。
 厚労省等による経済的インセンティブを用いた医薬分業の推進により、分業率は、過去20年で著しく上昇しましたが、常々、その効果が当初期待したものであったかということは検証されるべきと考えていました。過去10年間、医科の院内処方の調剤料及び処方料は約1,000億円減少しましたが、保険薬局の調剤技術料は5,500億円増加しています。この財政負担は、医薬分業を進めるために調剤報酬上のインセンティブを大きく付け過ぎた結果と言えます。
 調剤技術料は、院内処方から院外処方に移転した分以上に増加しており、これを端緒に、患者さんの恩恵・利便性、保険財政上の影響、医療機関や調剤薬局の経営状況等、さまざまな観点から掘り下げた議論が進むよう、期待しています。
 その他、前回の診療報酬改定では、消費税率の引き上げと重なったため、国民負担を増やさずに医療を充実させるという配慮の下、地域医療介護総合確保基金が創設され、地域医療の充実が図られることになりました。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、かかりつけ医を中心として、国民が住み慣れた地域で質の高い医療が受けられるよう、診療報酬と地域医療介護総合確保基金を車の両輪として、より一層医療提供体制の改革を進めていく所存です。
 今後は、会内の社会保険診療報酬検討委員会で取りまとめて頂いた前回改定の評価(別記事参照)と、次回の改定に関する要望書などを基に、執行部内でも検討を行い、中医協を主戦場として、日医の考えをしっかり述べていきたいと考えています。
 また、年末に向けては、さまざまなマスメディアを使って、適正な医療費の確保の必要性を国民に訴えていくとともに、国民医療を守る総決起大会の実施も含めた検討を行うため、国民医療推進協議会を開催したいと考えております。
 診療報酬改定を取り巻く財政状況は大変厳しく、会員の先生方お一人おひとりのより一層の理解と協力が求められます。会員の先生方にはぜひ、年末に向けまして地元選出の国会議員にご理解頂けるよう、働き掛けを強化して頂く等、ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

今回のインタビューのポイント

・国家財政が厳しい状況で、年末までに改定財源をめぐって大変厳しい攻防になる。

・人口が減少していく中で、我々医療側からも、国民皆保険を堅持していくための改革を進めるとともに、過不足ない医療提供ができる適切な医療を提言し、ソフトランディングしていかなければならない。

・調剤技術料は、院内処方から院外処方に移転した分以上に増加しており、これを端緒に、患者さんの恩恵・利便性、保険財政上の影響、医療機関や調剤薬局の経営状況等、さまざまな観点から掘り下げた議論が進むよう、期待している。

・診療報酬改定を取り巻く財政状況は大変厳しく、会員の先生方にはぜひ、年末に向けて地元選出の国会議員にご理解頂けるよう、働き掛けを強化して頂く等、ご協力をお願いしたい。

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