シリーズ連載
医科歯科連携がひらく、これからの「健康」③
医科と歯科が気軽に相談しあう関係へ(前編)
仙台市における地域の医科歯科連携
口腔内のことなら何でも相談してほしい
――小野寺先生は、主に訪問診療をされているとのことですが、実際にどんなケースで歯科と連携されているのでしょうか。
小野寺(以下、小):口から食べられないなど摂食機能の問題や、歯がグラグラしている、口の中が荒れている、といった口腔内の問題があるケースでは、できるだけ歯科の先生に関わっていただきます。
吉中先生と連携したケースですが、高齢の女性患者さんで、もともとは別の病院に外来で通院していた方がいらっしゃいました。体力が落ちて通院が難しくなり、私が訪問診療の形で引き継ぐことになったのですが、詳しく伺うと、数か月で体重が10キロほど落ちてしまったそうなのです。きちんと食事をとれていない可能性があるので、吉中先生に患者さんの口腔機能を評価していただきました。また、言語聴覚士さんによる舌の動きの評価や、管理栄養士さんによる、旦那さんでも簡単に作れる料理のレシピの提案など、多方面からアプローチしました。すると次第に食事がとれるようになり、3か月くらいで体重が4~5キロ増え、見るからに顔色も良くなり、全身状態も改善しました。
吉中(以下、吉):嚥下・咀嚼の機能が衰えると、十分な栄養が摂れなくなって全身状態が悪化してしまうこともあります。医科の先生の中には「全身が弱ってしまったら、歯を治療したところで、食べられるようにならないのでは」と思われる方もいらっしゃるようです。しかし、歯科医師や歯科衛生士に相談していただければ、口腔機能を評価し、適切な食事形態を選ぶといったアプローチができます。病院でも、在宅でも、チームの一員として歯科領域をうまく活用してほしいですね。
――医師からすると、「どんな状態であれば、歯科の先生に相談しても良いのだろうか」と迷うこともあると思います。
吉:私としては、口腔内の状態や食べる機能のことで何か気になることがあれば、すぐに呼んでいただきたいですね。歯科医師といえば「歯を削ったり、詰めたり、入れ歯を直す人」というイメージがあるかもしれませんが、口腔ケアや摂食機能を保つことも大きな役割です。最近は、医科で地域に根付いた「かかりつけ医」の重要性が注目されていますが、歯科でも同様に「歯」の治療だけではなく、その人の地域での「生活全体」を診る視点を持ち、かかりつけの歯科医師として診療活動を行っている歯科医師もいるのです。
*厚生労働省「平成27年(2015)医療施設(動態)調査」による
シリーズ連載
医科歯科連携がひらく、これからの「健康」③
医科と歯科が気軽に相談しあう関係へ(後編)
医科歯科連携を進めるために
――「食べる」という行為には様々な専門職が関わります。そのなかで、どこまでが歯科医師の専門領域なのかがわからないことも、医科と歯科の連携を難しくしているように感じられるのですが。
吉:個々の歯科医師によっても専門性に違いがありますから、まずは声をかけていただければ、協働するなかで役割分担も見つかっていくと思います。医科と歯科の境目はどこか、などと考えるのではなく、例えば患者さんが口から食べるためにはどうしたらいいか、一緒に考えていくことが重要なのではないでしょうか。口腔内に異常があれば咀嚼はできませんし、胸郭の動きが悪ければスムーズな嚥下はできません。医科と歯科、どちらか一方だけではサポートしきれませんよね。地域の医療者たちが連携するのは、患者さんを中心に考えれば、自然にできるはずのことだと思います。
小:私が歯科との連携に抵抗感があまりないのは、救急医としての経験が大きいと思います。救急の現場では、顎口腔外傷の治療のために口腔外科の先生と関わることは多いですし、様々な職種が連携して治療することが日常的でした。
現在は、在宅療養を支える医師として、患者さんとご家族の不安をなるべく減らしたいと考えています。病気や怪我をすると、不安になるのが当たり前ですよね。不安はなかなかゼロにはなりませんが、なるべく減らすお手伝いをしたい。そのためには、医師としてのスキルや知識を高めることに加えて、地域での連携・顔の見える関係づくりも大事なのではないかと思っています。というのも、例えば「口の中を診てもらってください」と医師に言われたとして、知らない歯科医師のところにいきなり行くのは不安ですよね。そんなときに、在宅の主治医が「信頼できる、よく知っている先生だから」と紹介してくれたら、不安は軽減されるのではないでしょうか。そのためには、紹介する側の先生とされる側の先生の人柄や仕事の内容がある程度見える関係作りが大切なのではないかと思います。
吉:私は、仙台の方言で「食べましょう」という意味の『食べらいん』というグループをSNS上に作って、地域の多職種で情報交換を行っています。グループには、医師・歯科医師・歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師などが参加しています。小野寺先生のおっしゃるような、密な「顔の見える関係」は、実際に連携して地域の患者さんに関わる際に絶対に欠かせないものですが、SNSで普段から気軽なつながりを作っておくことも有効だと感じています。
――医科歯科連携を医学生が学ぶためには、どうすれば良いでしょうか。
吉:まず歯科医療を見て、知ってほしいですね。医科と歯科の連携のために見学したいということであれば、きっと多くの歯科医師が協力してくれると思います。
小:医科と歯科の連携に限らず、多職種連携を学ぶときには、連携の現場を体験するとわかりやすいのではないかと思います。例えば、造影剤を使って嚥下機能を評価しているところを実際に見ると、誤嚥して食べ物が気管に入る瞬間がわかるのです。それを見れば、なんとかして誤嚥を防ぎ、ちゃんと食べられるように支援したい、という実感が湧いてくるのではないでしょうか。そんなときに、歯科の先生方は、私たちのアプローチとは異なる方策を持っていますから、協力しない手はないと思うのです。
今回お話を伺った先生
吉中 晋先生(写真左)
吉中歯科医院
小野寺 謙吾先生(写真右)
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