10年目のカルテ

研究を通じて、多くのこどもたちを小児がんから救いたい

【小児科】福島 紘子医師(筑波大学 小児科)
-(前編)

成人の内科を経て小児科へ

10年目のカルテ

――まずは、小児科医になった経緯を教えていただけますか?

福島(以下、福):1~2年生の実習で小児科に行き、こどもが可愛いなあと思って何となく小児科を志望するようになりました。けれど初期研修が始まってみると、1~2年目の医師が診るのは、一般的な病気の軽症の子ばかり。その時は「小児は専門性が高くないのかな」と思い、一生の仕事にするならもっと専門性の高い分野に行った方が良いのではないかと思ったんです。そこで3年目には志望を変えて、内科専門コースで後期研修を始めました。けれど、実際に内科で勉強を進めていくうちに、大人とこどもの病気は全然違うことや、小児科には小児科の特殊な専門性があることに気づいたんです。まだ後期研修1年目でしたし、ここで1年遅れるくらい大丈夫だろうと思って、再び小児科の門を叩きました。

小児科に移ってしばらくは、明らかに知識も足りず、診たことのない症例も多かったため、戸惑うこともありました。けれど成人の内科を経験したことで、小児と成人の治療への取り組みの違いを意識できるという強みもできたので、遠回りしたことは後悔していません。内科で学んだ1年はすごく大事な時間だったと思っています。

――小児科に移った後は、どんなキャリアを歩まれましたか?

福:筑波大の後期研修では、基本的には様々な専門分野を3~6か月ずつ回ります。私は、最初の半年は市中病院で一般小児科を回り、残り半年でNICUを経験しました。5年目には大学に戻って、代謝内分泌・循環器・神経・血液腫瘍など、大学でしか学べない分野を経験しました。

その後、7年目以降はそれぞれが専門に分かれて仕事するようになります。私の場合は、内科にいた時から血液腫瘍に興味があったので、専門は小児血液腫瘍にしようと決めていました。

10年目のカルテ
10年目のカルテ

研究を通じて、多くのこどもたちを小児がんから救いたい

【小児科】福島 紘子医師(筑波大学 小児科)
-(後編)

小児がんの治療のやりがい

――小児がんの治療には、どんなやりがいがありますか?

福:小児がんは、治った後に普通の生活を取り戻せる場合も多いです。成人の場合、どうしても「治す」というよりも「付き合っていく」という治療になることも多いと感じますが、小児の場合は家族やスタッフが一緒になって「普通の生活ができるように」という目標に向かって治療に取り組むところもやりがいにつながっています。中には治らない患者さんもいるので、その場合は限られた時間を本人や家族が幸せに過ごせるようにすることに力を尽くします。

 こどもが辛い治療を受けているときは私も辛いですが、その感情に流されることなく、専門職として冷静に治療をすることが、私がその子にできる最大の貢献だと思っています。

一緒に治療する関係を築く

――小児科は忙しいと聞きますが、実際どうですか?

福:市中病院を見て思うのは、やはり小児科は集約しないといけないということです。毎晩睡眠もろくに取れていない疲れた医師が診るのは、患者さんにとっても不幸だと思うんですよ。機能集約された病院なら医師の負担も分散されますし、論文を読んだり治療法を検討する時間をより多く取ることもできます。

――親御さんとの信頼関係を築くのが大変という話も聞きます。

福:もちろん、不安が強かったり、状況を受け入れられない親御さんもいます。時には医療者に対する厳しい言動もありますが、それはあくまで不安やショックが原因ですから、受け入れてほぐしていくのも医療者の仕事かなと思います。一緒に治療に取り組む関係を築くことができれば、若い親御さんたちは体力も精神力もありますし、医療者から見ても頼りになると感じますよ。

小児がんの研究に取り組む

――今は研究に力を入れているんですね。

福:おととしから大学院に入り、昨年から本格的に研究に取り組んでいます。小児がん治療は、まだまだ欧米で開発された治療法やエビデンスに基づくものが多いんですが、人種が違うと薬剤への反応も異なるんです。だから、遺伝子の違いが抗がん剤の代謝にどう関与しているのか、そしてそれが治療後の生存率や副作用の出現にどう関わってくるのか…といった分野を研究しています。日本では臨床データに基づく研究がない分野も多いので、自分が診ている子だけでなく、日本の小児がんのこどもたち全体に少しでも還元できるような研究結果が残せたらいいなと思います。

――今後、小児医療にどう関わっていきたいですか?

福:臨床家として取り組んでいきたいのは、病棟の環境づくりです。小児がんの場合、1年くらい入院して集中的な化学療法をすることが多いので、病院はこどもたちの「生活の場」になります。治療も大事ですが、やっぱり楽しく快適に過ごすことも大切です。以前はうちの病院でも、こどもたちの行動範囲や食事内容が厳しく制限されていましたが、有志の看護師と一緒に論文を調べて食事内容を変えたり、病棟内で遊べる環境を作ったり…と、入院中のQOLの改善に取り組んでいます。小児がん治療の専門家として、入院中のこどもたちの生活という面でも、力になっていければと思っています。

福島 紘子
2004年筑波大学医学専門学群 (現医学群医学類)卒業
2012年10月現在 筑波大学 小児科 助教