10年目のカルテ

カナダでの臨床留学の経験を活かしながら
てんかん治療を推進

【脳神経外科】藤本 礼尚医師
(聖隷浜松病院てんかんセンター 脳神経外科主任医長)
-(前編)

てんかんへの興味

10年目のカルテ

――脳神経外科を選んだきっかけは何でしたか?

藤本(以下、藤):臨床実習のとき、40代の女性がくも膜下出血で亡くなったのを目の当たりにしました。まだ若くて、子どもも小さくて…。何とかしたいと思ったのが脳神経外科に興味をもった最初のきっかけでした。

卒後、まず一般病院に2年間研修に行きました。当時はまだ臨床研修制度はなかったのですが、そのはしりといった感じでしょうか。研修医のころは、とにかく救急外来に張り付いて、脳神経外科の患者さん以外にも、内科や産婦人科も診ました。「わかりません」と言えるうちに何でも貪欲にやって、できること・診られる疾患を増やそうと努力したという自負があります。

――てんかんに興味を持ち始めたのはいつ頃なのでしょうか。

藤:3年目に大学に戻ってからですね。よく救急外来に運ばれてくる20代のてんかん患者さんがいたんです。その方はずっと治らなくて、車を運転しては事故を起こしてしまうといった問題を抱えていて、僕は「どうして治らないんだろう?」って疑問を持ちました。治せないかな、社会復帰させてあげられないかなと考えたとき、てんかんの知識をもう少し深めたいなと思ったんです。

10年目のカルテ
10年目のカルテ

カナダでの臨床留学の経験を活かしながら
てんかん治療を推進

【脳神経外科】藤本 礼尚医師
(聖隷浜松病院てんかんセンター 脳神経外科主任医長)
-(後編)

カナダで臨床留学

――9年目にカナダへ留学されていますね。

藤:はい。当時、てんかん治療といえばカナダが有名で、僕は5~6年目から留学の準備を始めていました。英語を勉強するために日本脳神経外科同時通訳団が開催している英語のトレーニングに参加したり、てんかん学会で発表したり、そこで出会った先生方に留学についての話を積極的に聞きに行ったりしましたね。

そして日本で脳神経外科の専門医資格をとった後、まずカナダのトロント小児病院に研究フェローとして行きました。ここで2年間脳波のトレーニングを積んだことで、後にカナダのてんかん専門医資格を取ることができました。

その後、今度は臨床フェローとしてカルガリー大学に入り、約1年半臨床医として働きました。とにかく向こうの臨床は症例数が多く、年間で350~400件くらいの手術を僕ひとりでこなした計算になります。術後管理はまた別の先生がやってくれるので、僕は手術に特化できた。この経験は大きかったですね。

――留学の中でも特に臨床留学は学生にとってイメージしにくいと思うのですが、具体的な流れを教えていただけますか?

藤:まず、海外の大学では「フェロー募集」という形で求人が出ているんです。ここに、自分の論文や研究テーマについて書いたEメールを送って応募(アプライ)する。僕はてんかんの権威がいる3大学にアプライして、すべて返事をいただくことができました。

その後の面接は、まず朝のカンファレンスに参加するところから始まりました。シアターのようなところで40~50人ぐらいでやる大規模なカンファレンスを聞きながら、「この症例どう思う?」という質問にその都度答えていくという形です。ここで答えられなかったらまず落とされてしまいますね。それから手術室を見に行って、同じように症例について質問されて…。ランチも先生方と一緒に食べます。午後は病院見学と、さらなる面接があります。一日まるまる使って、一緒に働けるかどうかの相性を見ているんだと思います。

てんかんはメジャーな病気

――日本に戻った後、どんな経緯で今に至ったのですか?

藤:帰国後は、自分がやってきたことが活かせて、かつもっと成長できるところに行きたいと思い、このセンターを選びました。脳神経外科・神経内科・小児科など様々な分野の医師が集まったセンターなので、同じ症例を見ていても角度が違って興味深いです。科を越えて症例を共有することで、自分の持っている知識を常にアップデートしていくことができる。もう、仕事が楽しくて仕方ないですよ。

今後の目標は、てんかんの適切な治療をもっと推進していくことです。てんかんは人口の1%が罹患しているメジャーな病気にもかかわらず、まだまだ偏見が多いんです。医師の世界ですら、「てんかんは治らない病気だ」と思われている。そんなことはないんだと、しっかり治療していくことで示したいです。そして治ればちゃんと社会復帰できるんだということも、もっと世の中に広めていかなければと思います。

――最後に、学生にメッセージをお願いします。

藤:チャンスはたくさんありますから、特に海外留学したい人は、学会などで先生方に何でも気軽に相談したらいいと思います。具体的にひとつアドバイスをするならば、お手製でいいから自分の名刺を作っておくといいですね。気になった先生がいたら名刺を渡して、向こうの名刺をもらい、Eメールを送るんです。対応してくれる先生は結構いるものですよ。ぜひ積極的に行動してみて下さい。

藤本 礼尚
1998年 筑波大学医学専門学群卒業
2013年4月現在 聖隷浜松病院てんかんセンター 脳神経外科主任医長