医師の働き方の構造的問題

公開日:2021.09.13 / 最終更新日:2023.04.05
Point
  • 医師は雇用や報酬の形態が
  • 複雑である場合が多く、
  • 様々な制度・手当に
  • 影響が出る可能性があります。

① 医師の就労に関する文化・慣習が影響しています

医師のキャリアは臨床研修から始まり、その後多くの人は大学医局をはじめとする専門研修プログラムに参加します。プログラムの内容や医局人事によって、短期間に複数の医療機関を異動しながら経験を積む医師は少なくありません。
そのため、本人としては「○○大学/○○病院のプログラムに所属」という意識であっても、実際には短期間に複数の医療機関と労働契約を結び直している場合があります。
この場合、制度上は何度も転職を繰り返している状態であり、異動のたびに有給休暇の日数がリセットされたり、育児休業や傷病手当などの労働者保護制度の対象から外れることがあり、注意が必要です。

② 主な勤務先の給与が少ない場合があります

大学病院をはじめ、教育や研究に力を入れている医療機関に勤める若手医師の場合、主たる所属先の給与が低額であり、外勤やアルバイトによって収入を補うケースがあります。総収入のうち、主な勤務先からの給与の占める割合が小さい医師も少なくありません。
健康で働き続けていれば問題はありませんが、心身の不調や出産・育児等で働けなくなったときの休業手当は、主な勤務先の給与をもとに算出されます(詳しくはこちら)。そのため「育児休業の際の手当などが思っていたより遥かに少なく、生活が大変だった」といった話もしばしば聞かれます。

【体験談】 専門研修で大学の循環器内科に入局したら、実際には様々なところに雇用されていた (循環器内科、30代)

私は臨床研修が終わった後、大学病院の内科専門研修プログラムに登録しました。
専門研修1年目(医師3年目)は大学病院のレジデントとして、半年はいくつかの内科をローテートし、残りの半年は循環器内科専従で研鑽を積みました。この時は、大学病院の非正規雇用の医師という立場でした。2年目には、関連の市中病院の循環器内科に医員として赴任しました。ここでは、市中病院に正規職員として雇用されていたことになります。
3年目には、大学病院に戻ることになりました。再び大学病院の非正規雇用の医師になったということになります。半年経ったところで、循環器の専門病院に3か月の研修に出ました。この期間は、専門病院での契約社員といった扱いとなり、一度は大学病院を退職したことになりました。そして3か月の研修後、再び大学病院に戻りました。
私が雇用関係を意識したのは、専門病院に勤務していた時代に体調を崩し、医療機関を受診した時のことでした。というのも、それまで使用していた健康保険証が使えなくなっていたのです。
勤務先が変わるたびに、健康保険や雇用保険、年金などの加入先が変わっていたのだとわかり、とても驚きました。幸い私の場合、大学の事務の方が手続きをしっかりやってくださっていましたが、医療機関によっては手続きをしてくれないところもあるようです。また、様々な社会保険制度を転々としていることによって、手当がもらえなかったり、将来もらえる年金の額が少なくなったりするそうです。
自分が今どこに雇用されているのかを意識しておかないと、いざというときに様々な制度や支援の対象外になる可能性があると思い知らされました。皆さんも気を付けてください。

③ 医師の「自己研鑽」は労働時間?

医師が自らの知識の習得や技能の向上を図る「研鑽」を行う時間が、労働時間に該当するかどうかについて、判然としないという指摘があります。厚生労働省「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、その行為が上司や使用者によって義務づけられていたり、実施することが余儀なくされているなど、使用者の指揮命令下に置かれたものであると評価できるか否かで客観的・個別的に判断されるとしています。
例えば「新しい治療法や新薬についての勉強」や、「自らが術者等である手術等についての予習や振り返り」といった、一般診療における新たな知識・技能の習得のための学習は、所定労働時間外に自らの意思で申し出て、上司の指示(明示・黙示に関わらず)なく行う場合、一般的に労働時間に該当しません。しかし、診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものは、労働時間に該当します*。各医療機関においては、どの研鑽が労働時間にあたるかを明確にするための手続きや、それがきちんと運用されるような環境の整備が求められるとされています。

*厚生労働省 第1回医師の働き方改革の推進に関する検討会 参考資料3「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」、令和元年


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