医師のみなさまへ

2019年5月1日

第1回 生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー 受賞作品
小学生の部【優秀賞】

「私はNICU卒業生」

石野 美宙(12)東京都

 母が妊娠高血圧症で長期入院をしているとき、更に常位胎盤早期剥離を起こし、母は心肺停止となり、超緊急帝王切開で私は心肺停止で生まれた。私は32週0日だった。私はペットボトルよりも小さな体で、すぐにNICUに運ばれた。幸い母も私も、後遺症もなく、奇跡的に2人とも助かった。

 母の意識が戻ったのは翌日で、私に会えたのは2日後だったそうだ。

 「有難ありがとう。生まれてきてくれて、有難う」

 母が私に、初めてかけてくれた言葉だ。NICUはオルゴールの音楽がかかっており、私の入っているプラスチックの箱の後ろは、遊園地の観覧車や楽しそうな遊具が見えており、母はチューブだらけの体の私を見て、いつも泣いていたそうだ。

 泣いてばかりの母を見て、看護師さんが「お母さん、赤ちゃんは一生懸命頑張っているから、お母さんはにこにこ笑っていてくださいね」と声をかけられたお陰で、母は泣くことをやめ、短い面会時間の間は笑って過ごせるようになったという。母が私の前で泣かず、にこにこ笑っているのは、恐らくこのころに母として強くなったのだと思う。

 私が3歳になる前に、母のお腹の中に妹の命が芽生えた。病院から、「次の出産も必ずここで診てもらうように」と言われていたので、母は私を連れて3年ぶりに大学病院へ診察に行った。すると、母の担当医だった先生のひとりが、母を診ることになった。

 先生は私を見て、「あれ?この子は......もしかして、あの時の子?」と言い、母は「そうです、この子があの時の子です」と言うと、先生はぽろぽろと涙をこぼし、声を震わせながら私の頭をでて言った。

 「君があの時の子なんだね。君が生まれるとき、本当に大変だったんだよ。うちの大学始まってからも、前例がないほどで。こんなことを言うのもおかしいけど、医学の力ではとても説明できないほど、神がかり的な奇跡としか説明ができないんだよ。そうか、君がそうなんだね。命を大切にね」

 私が母のお腹にいるとき、そして生まれてくるとき、どれほど大変だったかを幼いころからずっと聞いてきたが、このときの先生の涙と「命を大切にね」の言葉が、どれほど大変だったか、どれほど命が尊いものか、私は妹のいる母のお腹を撫でながら、幼いながらも心に沁み込んだ。そして私は、大学病院の先生たちが母と私を助けてくれたように、私も人の命を救いたいと思うようになった。

 私が生まれてから12年、干支えとを1周し、私は将来の進路を決めていく分岐点に立っている。干支が2周目を迎えるとき、私は私が卒業したNICUで、卒業生代表として、入学してくる小さな命と、涙を流すお母さんのために、私は命ある限り尽くしたいと思っている。「命を大切にね」の言葉を、私は多くの人に伝えていきたい。

第1回 受賞作品

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