ケーススタディ 倉敷スイートタウン
一つの「まち」として機能する(後編)

院長インタビュー

回復期・慢性期のやりがいは、喜びを分かち合うこと

松木 道裕院長

急性期では、疾患を治すことが医師としてのやりがいになるでしょう。しかし回復期・慢性期の場合、高齢の患者さんが多いこともあり、全ての疾患が治るという方はほとんどいません。そうしたなかで医師に求められるのは、患者さんやご家族のお気持ちを受け止めながら医療にあたることです。患者さんやご家族と長く関わり、様々な喜びを分かち合うことが、回復期・慢性期の医療のやりがいだと私は思っています。

これからは、地域包括ケアの担い手となる医師がますます必要とされるでしょう。急性期病院などでスペシャリストとしての経験を積んだ後、いわゆる一般内科の幅広い知識を身につけ、回復期・慢性期の病院で働くという選択肢もあるということを、医学生の皆さんにもぜひ覚えておいてほしいと思います。

 

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(写真左)思い思いに楽しく過ごされている入居者の皆さん。
(写真右)施設内のレストラン。誰でも利用できます。

 

看護部長インタビュー

より患者さんに近い立場で看護ができる

高橋 里子看護部長

私はかつて大学病院で勤務していましたが、回復期・慢性期では急性期と比べ、より患者さんに近い立場で看護ができると感じます。患者さんの退院後の生活や、ご家族のお気持ちをしっかり聞き取り、それを踏まえた準備をしたうえで送り出すことができるので、ご家族からも「良かった、これなら安心して家で看ることができます」と言っていただくことが多いです。また、高齢者向け住宅が併設されているため、退院後にそちらに入居された場合には継続して様子を見ることができるのもメリットの一つです。

小規模で小回りが利くからこそ、患者さん一人ひとりの生活や、その人の生き様に寄り添った看護ができる。それが、当院のような病院における看護の醍醐味だと思います。

 

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(写真左)季節のイベントでは、世代を超えた交流も。
(写真中・右)院内のカフェやコンビニも、地域の憩いの場になっています。

 

 

「尊厳の保障」を大切に

江澤 和彦日本医師会常任理事

医療は生活を支えるためにある

私は34歳の時に病院経営者になりました。経営者の役割は、質の高いサービスを地域住民に提供することだと考えた私は、医師・看護師・リハビリなど、サービスに携わる全職種の仕事を学ぶことにしました。そこで最もカルチャーショックを受けたのが介護でした。それまでは疾患にばかり目が行っていて、患者さんの生活のことを考えていなかったと気付いたのです。入浴介助や排泄介助などを体験するなかで、「医療は生活を支えるためにある」ということを身をもって感じました。

それからは、住まいのことや食事のこと、ご家族のこと、受けられる介護サービスのことなど、入院前と退院後の日常生活まで考えたうえで診療にあたるようになりました。平面的だった自分の診療が、徐々に立体的になっていくように感じられました。

じっくり深く関われる醍醐味

医師は、一人ひとりの人生を預かる仕事です。もちろんエビデンスに基づいた医療を提供することは大前提ですが、そのうえで患者さんの生活を考えていくことがとても大事です。特に回復期・慢性期においては、病状が良くなることや検査データが改善することよりも、ご本人が大事にされたいことがある場合もあります。ですから、患者さんが人生において何を大切にしているかを理解しないと、本当の意味での良い医療は提供できないのです。今は寝たきりや意識障害のある方も、お元気だった頃には仕事に精を出し、趣味を楽しみ、ご家族との団欒を過ごしていたはずです。そのことに思いを馳せながら、目の前の患者さんのために何ができるかを考えて関わる必要があるでしょう。長い時間をかけて、その方の人生にじっくり深く関わることができるのは、回復期・慢性期の医療の醍醐味だと私は思っています。

生活を重視する医療の時代へ

今後は、生活を重視する医療がますます求められるようになるでしょう。疾患だけを治す職人のようでは、医師は務まらない時代になるのではないでしょうか。私は、医療・介護の究極のゴールは、その人らしい暮らしや穏やかな最期の実現にあると思います。患者さん一人ひとりの「尊厳の保障」こそ、医療人の最大の使命であると確信しています。

これから医師になる皆さんは、まずは急性期で研鑽を積むことになると思いますが、その先にもこんなに奥が深くてやりがいのある医療があるということを、ぜひ覚えておいてほしいです。