保健所で働く人たち(前編)

ここでは、若手の保健所医師が配属されるような比較的規模の大きい保健所を想定して、どのような体制で業務を行っているかの目安を、保健所や市区町村の地域保健事業に関わる常勤職員の全国統計調査をもとに示します。
※保健所の体制や業務内容、各職種の人数は、都道府県や規模によって異なります。

医師   2人(全国で907人)

各職種を統括し、最終的な意思決定を行う

1.政策や事業の企画立案と調整

事務系職員や保健師などと協力し、医学的知識をもとに地域の健康課題を明らかにして、企画に落とし込み、それを実施する手立てを考えます。医学的観点と行政的観点の双方を理解しながら、地域の医療提供体制の構築や維持をコーディネートしていきます。

2.医学的判断や意思決定

各種調査で示されたデータを集約するなどして、医学的に評価・判断し、対策を指示します。感染症や食中毒、災害などの健康危機が発生した場合は、特に医師の判断の重要性が増します。その他、所長や管理職として、各職種の統括や様々な管理業務も行います。

3.調査の実施・調査方法の検討

保健所では、疫学調査や地域医療の実態調査、食中毒などの発生時の聞き取り調査や施設への立ち入り調査など、様々な調査を行っており、それらは医学的な評価・判断の重要な根拠となります。医師はどのような調査が必要か考え、調査方法を検討します。

4.各機関との調整・関係構築

地域の医療提供体制を守るには、保健・医療・福祉に関わる各機関との調整や関係構築が非常に重要です。こうした業務は保健師なども行いますが、例えば医師会や医療機関との間では、医師同士が医学的観点に基づいた意見交換などを行うことで、よりスムーズに進みます。

保健師   60人(全国で26,342人)

地域保健の要となる様々な実務を担う

1.相談や訪問支援

母子保健や老人保健、精神保健、難病対策といった分野では、当事者の居宅を訪問し、様々な相談や支援を行います。地域全体の状況や、医療・保健・福祉機関に関する情報を熟知し、その知識を活用して、支援の必要な人を適切な機関につなぐなど、きめ細やかに対応します。

2.各種調査に関する業務

積極的疫学調査や健康調査といった分野では、普段から住民と身近に接し、地域の状況などをよく把握している保健師の役割が非常に重要となります。調査対象者や関係者とコミュニケーションをとり必要な情報の聞き取り・収集を行います。

3.地域保健に関する企画立案と調整

保健師は、普段から地域に出向いて相談や支援、調査などを行っていることで、地域の状況や健康課題をよく把握しています。そうした日頃からの知識と各種データを組み合わせ、個別課題から地域全体の健康課題を抽出し、解決のための企画立案や調整を行います。

4.住民への予防的介入や連携

健康に関する啓発活動を企画・実施し、住民が主体的に健康問題を解決できる仕組みを作ります。また、生活習慣病などの発症予防・重症化予防のために情報発信や早期介入を行ったりして、地域全体の健康レベルを向上させる役割を担います。

5.組織横断的な総合調整・指導

全国の保健所の約半数で、「統括保健師」が配置されています。 統括保健師は、保健所の内部や地域の各関係機関・関係者・関係部局と密に連携して、広域的・総合的な調整を行ったり、保健師の行う保健活動を組織横断的に総合調整・推進したりといった役割を担います。

 

※全国における各職種の常勤職員の人数は、厚生労働省政策統括官付行政報告統計室「平成30年度地域保健・健康増進事業報告」による。

 

保健所で働く人たち(後編)

事務職員   10人~

企画調整などの業務を担う

行政職として、国や自治体との調整、法律や行政文書に関する業務、予算の確保など重要な役割を担います。

 

管理栄養士   7人(全国で3,542人)

地域住民の栄養改善や食の安全を守る

国民健康・栄養調査等による地区診断などから健康課題を明確にし、地域住民の栄養改善につなげます。地域住民への栄養指導や相談、地域の食育推進、特定給食施設などへの指導、食品表示に関する指導なども行います。食品衛生監視員として営業施設への立入検査を担う人もいます。

 

薬剤師   6人(全国で3,186人)

薬事衛生のほか、様々な衛生業務を担う

薬事衛生をはじめ、食品衛生、生活衛生、水道衛生、規格基準検査や化学検査のような試験検査など、様々な業務を担います。薬事衛生では、薬局や医療機器販売業などの許可や監視・指導、住民への医薬品等の安全使用に関する注意喚起といった業務を担います。

 

理工系職員   5人

生活衛生・環境衛生関連の業務を担う

高等教育機関で、理学・工学・農学・保健衛生学等を修めた技術系職員です。生活衛生や環境衛生の分野で活躍しています。

 

獣医師   5人(全国で2,463人)

動物愛護や感染症、その他衛生業務を担う

動物愛護・管理だけでなく、と畜検査をはじめとする食品衛生、生活衛生、水道衛生、人獣共通感染症の発生予防などの業務を担います。動物愛護・管理に関しては、地域住民への動物愛護の普及啓発、迷い犬や負傷動物の収容と保護、狂犬病予防法に基づく業務などを行います。

 

診療放射線技師   2人(全国で471人)

放射線に関する専門知識を活かす

保健所での結核検診等の放射線検査やその他感染症対策業務、医療機関への立入検査などを行います。福島原発事故に際して、保健所によっては、避難住民への除染や健康チェック、がれき受け入れにあたる自治体の住民への説明などの業務も担いました。

 

臨床検査技師   2人(全国で701人)

食品衛生や感染症に関する検査を担う

食品衛生や感染症対策業務、環境衛生業務などを担っています。食品衛生に関しては、施設の監視業務などの他、食中毒や感染症が発生した際の細菌・ウイルス検査、食品の残留農薬や添加物を調べる理化学検査など、様々な検査業務を担います。

 

歯科衛生士   2人(全国で699人)

歯科口腔保健に関する普及啓発に携わる

地域における歯科保健の水準を向上させる役割を担います。8020運動などの歯科保健の啓蒙・推進などを、歯科医師会などと連携しながら実施します。また、乳幼児歯科健診の場でフッ化物塗布や歯みがき指導、保育園や小学校での歯みがきの集団指導なども行います。

 

精神保健福祉士   2人(全国で929人)

精神保健に関する様々な支援や体制整備をする

様々な関連機関と連携し、精神障害のある人の早期治療の促進、社会復帰や自立の支援と社会経済活動への参加の促進、地域住民への啓発や、住民の精神的健康の保持増進などを行います。精神医療に関する機能分化の促進、医療保護入院者の退院支援などの体制整備にも関わります。

 

看護師   2人(全国で726人)

保健師ではない看護師も活躍

看護師保健所には、保健師資格を持たない看護師も勤務しています。予防接種や健康診断・検診業務、住民の相談業務に携わったり、保健師と同様に地域に出向いて、居宅訪問や啓発活動などを行ったりします。

 

※全国における各職種の常勤職員の人数は、厚生労働省政策統括官付行政報告統計室「平成30年度地域保健・健康増進事業報告」による。

 

 

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