保健所が担う様々な仕事 STUDY3

※この記事は、現役の医学生に各テーマについて書いていただいたレポートをもとに、編集部がリライト・再構成を行ったものです。

企画調整分野医学生レポート:保健所の医療機関立入検査について

立入検査の目的

保健所の機能の一つに、「医療機関への立入検査」があります。これは保健所の機能の大前提である「医療整備」にあたり、「医療機関は良質かつ適切な医療を担う役割を持ち、行政はこの監督をする役割を持つ」という理念に基づいて医療法25条1項に定められています。

立入検査の目的は、その病院が「科学的で、かつ、適正な医療を行う場」であるかどうかを確認することです。直接的には医療法及び関連法令を遵守させることにありますが、そのことにより医療内容を向上させることを目的としています。

具体的には、医薬品や医療廃棄物は適切に管理されているか、職員の健康管理はできているか、院内感染防止のための対策はできているか、診療録等の記録は適切に管理されているか、防火・防災体制はできているか、といった点が確認されます。2020年度には、新たに「診療放射線に係る安全管理体制」などの項目が追加されました。それに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、様々な臨時的措置が行われています。そこで今回は、2020年度に実施された医療機関への立入検査がどのように行われたかに着目してみたいと思います。

コロナ禍における立入検査

病院は原則1年に1回、立入検査が行われています。ただし、今回のCOVID-19感染拡大の状況下で、2020年5月に厚生労働省から通知が出されており、「立入検査実施要綱に関わらず、感染状況等を勘案して実施すること」が要請されています。例えば私たちが通う京都大学のある京都市では、2020年度は定期の立入調査を中止して、院内感染に特化した形での調査を行うこととなったようです。

2020年度では定期的な立入検査が行われた自治体は少なく、京都市の場合は例年通りの安全管理に加えて、COVID-19への対応に関する調査がアンケート形式で行われました。調査票には、院内感染対策をどの程度行っているか、COVID-19に感染している疑いのある患者をどのように扱っているか、入院患者の対応策、院内感染が発生した場合に想定している対策、物資の備蓄状況、医療機関同士の連携などといった項目に記入するようになっています。

また、2020年9月には、厚生労働省から立入検査についての通知が示され、例年通りの項目に加えて、「オンライン診療がルールに従って適切に行われているか」「初診患者への電話・情報通信機器を用いた診療について、状況報告がなされているか」などの点が加えられました。2020年度からはCOVID-19への感染リスクを抑えながら医療へのアクセス機会を確保するため、「全くの初診患者」に対しても、時限的特例的に、電話や情報通信機器を用いた診療を行うことが認められました。しかし、誤診のリスクが少なくないことから、厚労省は初診患者への電話・情報通信機器を用いた診療では「麻薬および向精神薬、ハイリスク医薬品は処方してはならない」、また「処方日数は7日を上限とする」というルールを遵守することと、実施状況などを都道府県に報告することを医療機関に求めています。今回の立入検査ではこの報告がきちんとなされているかが確認されました。初診の患者に対して電話で診療するには、ルールを遵守しかつ診療の実施状況を都道府県に報告することが必要です。こうした状況の調査によって、誤診のリスクを減らすことにつながります。

このように、保健所による医療機関の立入検査の方法や内容は、大きく軸が変わらないままでも、その年の国の感染症などの状況によって変化しうるということがわかります。

 

[参考資料]

・医療法

・竹内 千佳 (2018) “医療法が定める立入検査”
https://www.drp.ne.jp/pickup②rticle/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%8C%E5%AE%9A%E3%82%81%E3%82%8B%E7%AB%8B%E5%85%A5%E6%A4%9C%E6%9F%BB/
(閲覧日:2021年3月3日)

・Gem Med (2020) “2020年度の医療機関立入検査、オンライン診療や電話等診療が適正に実施されているかを重視―厚労省”
https://gemmed.ghc-j.com/?p=35946(閲覧日:2021年3月1日、3日)

・笠浪 真 (2020) “転ばぬ先の杖 保健所立入検査にはこう備えよう”, 「開業医の教科書」
https://kaigyoui.info/let-s-keep-moving-on-the-cane-health-center-on-the-spot-before-it-is-changed/
(閲覧日:2021年3月3日)

・一戸圭一 (2013) “医療法に基づく立入検査について ~院内感染対策指導を含む~”
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/hoken/files/201210_3_100.pdf
(閲覧日:2021年3月3日)

・全国保健所長会 地域保健の推進に関する委員会(2001) “「医療機関の立ち入り検査についての調査・研究」報告書”
http://www.phcd.jp/02/kenkyu/chiikihoken/pdf/2001_iryou.pdf
(閲覧日:2021年3月1日)

・京都市役所 京都市情報館(2021) “医療機関における新型コロナウイルス感染症 感染防止に係る実態把握について”
https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000271206.html
(閲覧日:2021年3月1日)

記事制作協力

 

 

京都大学
医学部医学科4年
大槻 真子

 

 

 

 

京都大学
医学部医学科4年
宮脇 里奈

 

 

No.37