助産師(前編)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療を担う一員となるでしょう。本連載では、様々なチームで働く医療職をシリーズで紹介しています。今回は、春日井市民病院産婦人科の助産師の西澤雪江さんと生田由紀さんにお話を伺いました。

定着した助産師外来

――春日井市民病院産婦人科では、お産に関してどのような取り組みが行われていますか?

西澤(以下、西):当院は総合病院として、正常妊娠から合併症のあるハイリスク妊娠、多胎妊娠まで、幅広く対応しています。

助産師が妊婦健診を行う「助産師外来」や、リスクの低い妊婦を対象に、妊娠から産後まで助産師が主となって担当して自然なお産を目指す「院内助産」を行っています。また退院後の産婦さんに対しては、助産師が24時間体制で赤ちゃんとの生活をお手伝いする「産後ケア入院」を提供しています。

――助産師外来では、妊婦さんとは具体的にどのような関わり方をするのでしょうか?

西:医師は、その責任として多数の妊婦さんの診断を担っています。心配事や疑問とゆっくり向き合う時間はとれないのが現状です。一方、助産師外来は一人につき1時間ほど、日常生活における心配事などをゆっくり聞くことができる環境です。医師の許可があれば妊娠初期・中期・後期に各1回ずつ受けることができ、すべての妊婦さんに最低1回以上、平均2回ほど入ってもらっています。便秘や足のむくみといった、医師には言えなかったちょっとした身体的な困りごとの相談は少なくありません。

生田(以下、生):妊娠初期の妊婦さんには、妊娠に対する思いや、家族構成、病歴、妊娠・出産・育児のサポートの有無などをしっかり聞き取って、ハイリスクかどうかを判断します。

中期は、正常な経過をたどっていても、腰痛や便秘などのマイナートラブルが起こるため、その相談に乗っています。また、無事に出産を迎えることができるように、食事や運動など日常生活面での指導を行っています。

後期は、入院の準備や家に赤ちゃんを迎える準備ができているかなどの保健指導が中心です。

また、妊娠・出産に対する漠然とした不安や家族問題の相談を聞くなど、精神面のサポートも行っています。特に、出産後の養育について妊娠中から支援が必要と認められる「特定妊婦」の方とは、じっくり関わるようにしています。

――助産師外来で得た情報は、他職種とどのように共有するのでしょうか?

:妊婦さんから聞き取った内容は、必要なことはカルテに記録し、場合によっては医師に直接話をしに行きます。便秘など当日中に処方が必要な場合は、すぐに依頼しています。

西:医師から依頼を受けることもあります。助産師外来は開設して10年以上になり、医師もその重要性を認識してくださっているため「この妊婦さんからこういうことを聞いてほしい」といった要望はよく聞きます。

また、妊婦さんに公的な支援が必要だとわかった場合は、保健師やソーシャルワーカーにつなぎます。保健師は、母子手帳が交付された時点で妊婦さんと面談をしており、もともとある程度の情報を持っています。月に一度の連携の会議で情報共有を行っていますが、緊急時には電話をかけて、すぐに家庭訪問をしてもらいます。

 

 

(左)新生児用ベッドでのケアの様子。
(右)助産師外来では助産師自らエコー検査を行います。

 

 

 

助産師(後編)

院内助産と産後のケア

――次に、分娩に関する取り組みについてお伺いします。院内助産は、通常のお産とはどう違うのでしょうか?

:院内助産は、適齢で、今までに大きな病気がなく、妊娠経過が順調なローリスクの妊婦さんを対象としています。基本的に薬剤を使用せず、自然なお産を目指します。日本助産評価機構が認証している「アドバンス助産師」という資格を持つ助産師が主体となり、医師と連携しながら行います。

出産後臍帯を自分自身で切りたい、臍帯を切る前に赤ちゃんを抱っこしたいなど、通常のお産では難しい要望をバースプランに組み込むことができる点は、助産院に近いと言えます。それでいて、医師が常勤しているため、緊急事態に即時対応できるところが院内助産の最大のメリットだと思います。

西:院内助産を選んだ方は、通常の妊婦健診とは異なり、医師による健診は初期に数回、中期・後期に1回ずつ受けていただき、それ以外はすべて助産師外来で対応しています。

通常のお産を行う場合、助産師外来では主に、妊婦さんのお話を聞き、生活指導を行います。しかし院内助産を選んだ方に対しては、医師の代わりに血圧測定や尿検査、エコー検査なども行います。異常が認められればすぐに医師に報告します。見落としがあってはならないため、より大きな責任を感じます。

とはいえ、通常のお産も助産師が主体となり、担当の医師に適宜報告しながら進行していくため、だんだん院内助産との境目がなくなってきているような印象です。

――次に、産後ケア入院の概要と、助産師さんの関わりについて教えてください。

西:産後ケア入院は、育児技術の習得や休息を目的として始めました。産後2か月までの母子が対象で、一泊二日もしくは二泊三日、個室に宿泊ができます。開設した背景の一つには、産婦さんの高齢化があります。産婦さんの親も高齢化しているため、産後の里帰りが困難なケースが増えているのです。助産師は、主に指導とメンタルケアで関わっています。

:最近は産後うつにより、休息や相談を切望する方も増加しています。産後うつに関しては、精神科の医師とも連携し、臨床心理士にも関わってもらっています。専門的な治療が必要となる場合は、連携している大学病院に紹介しています。

助産師ならではの喜び

――助産師としてのやりがいについてお聞かせください。

西:私が助産師を目指したきっかけは、実習で様々な科を回っていた際、退院を純粋に「おめでとうございます」という言葉で見送れるのは産科だけだと気付いたためでした。実際に職務に就いてからも、自分が担当したお子さんが大きく成長された姿を見かけたときなどは、特に助産師としてのやりがいを感じます。

また、専門性を活かして医師とやり取りができることも、総合病院で働く助産師ならではの醍醐味だと思います。

――最後に、これから医師になる医学生へメッセージをお願いします。

:安全なお産のためには、医師と助産師の信頼関係が何よりも大切です。そのため、医師とは普段から、お昼ごはんを一緒に食べながら日々の仕事について振り返ったり、和気あいあいと過ごしています。赤ちゃんが生まれる瞬間に医師が間に合わないということがたまにあるのですが、そんな時でも「助産師さんを信頼しているから大丈夫だよ」と言ってもらえると、信頼を実感できて嬉しいですね。医学生の皆さんにも、ぜひ産科の医師という選択肢を検討してもらいたいです。

 

西澤 雪江さん
春日井市民病院産婦人科病棟
主査 助産師






 

生田 由紀さん
春日井市民病院産婦人科病棟
助産師






 

 

※取材:2022年3月
※取材対象者の所属は取材時のものです。