本連載は、医師不足地域で働く若手医師に、地域医療の最前線で働くことの魅力についてお尋ねするコーナーです。今回は福島県の大原綜合病院の佐久間真悠先生と公立岩瀬病院の小鹿山陽介先生にお話を伺いました。

 

 

様々な地域、様々な病院で
様々な人と出会い、医師として成長したい

福島の人々の役に立ちたい

――佐久間先生が医師を目指した理由をお聞かせください。

佐久間(以下、佐):昔から、人と関わる職業に就いて人の役に立ちたいという思いがありました。そのなかでも医師を選んだのは、患者さんから直接感謝の言葉を頂ける機会が多く、役に立っていることが実感できる職業だと思ったからです。

私は福島市で生まれ育ちました。東日本大震災が起こったのは、福島県立医科大学(以下、県立医大)に合格した高校3年生の春休みです。津波による甚大な被害や、放射線に関する風評被害を目の当たりにするなか、学生ゆえの無力さに歯がゆい思いをしました。震災を経て、福島の人々のために働きたいという思いが一層強まったように思います。

――臨床研修は、太田西ノ内病院で行われたのですね。

:はい。臨床研修で医師としての基盤を培うにあたり、様々な先生の考え方や働き方に触れて多くのことを吸収したいと考えていました。そこで、研修病院は、魅力的な先生方がたくさんいらっしゃり、研修医でも多くの患者さんに関われるような病院を探していました。太田西ノ内病院は、そうした条件を備えた理想的な病院だったのです。

――県立医大の循環器内科に進んだ理由をお聞かせください。

:研修するなかで、手を動かすことが好きだと感じ、手技がある科に行きたいと思いました。また、臓器一つではなく全身を診られる科に興味がありました。循環器内科は循環動態の管理など全身を診る科でもあり、カテーテルの手技もあります。救急科とも迷ったのですが、循環器内科の「診断から治療まで自分で完結できる」という点と、県立医大の循環器内科の医局の雰囲気が非常に良かったことが決め手になりました。

――医局のどのような点に魅力を感じられたのですか?

:医局の先生方が、医師として人間として尊敬できる方ばかりだったのです。また、女性医師のライフステージに合わせた支援や、男性医師の育休取得にも理解があるなど、ワーク・ライフ・バランスが重視されている点も非常に魅力的でした。

さらに、医局に所属すれば診療応援という形で県内の関連病院で働くことができることも、私にとっては非常に重要でした。様々な病院で働くことは、自分の経験に直結し、地域医療への貢献にもつながるからです。これまでに診療応援に行った病院は20か所ほどに上ります。

――今後の展望についてお聞かせください。

:将来的にはカテーテル治療の専門性を極めていきたいと考えています。4月からは、大学院に入学すると同時に、東京の病院に2年間国内留学し、カテーテル治療の勉強をする予定です。留学先で学んだ知識や技術を福島に還元していきたいです。

 

 

 

(左)桧原湖のほとりにあるラーメン店の山塩ラーメン。山塩とは、磐梯山の麓にある大塩裏磐梯温泉の温泉水を煮詰めて作られる塩で、裏磐梯地域の特産品。
(右)会津の地酒。福島県、特に会津地方は全国でも有数の日本酒の産地で、酒蔵巡りも楽しめる。

 

様々な出会いを成長の糧に

――先生は、様々な場所で多様な経験を積むことを重視されていますね。その背景にはどのような思いがあるのでしょうか?

:根本にあるのは「患者さんを良くしたい」という思いです。医師の仕事は患者さんあってのもので、毎日何回も感謝の言葉を頂ける、非常に恵まれた職業です。だからこそ、自分の知識や技量不足で患者さんに不利益をもたらすことは許されませんし、絶えず成長していく必要があると感じています。ずっと同じ場所にいても成長はできると思いますが、人も地域も医療のやり方も異なる環境のなかで、多くのことを吸収していくことが自分には合っているように思うのです。

また、患者さんは一人ひとり、歩んできた人生も価値観も全く異なる人たちです。様々な人の考え方を理解できなければ、そもそも診療は成り立たちません。その意味でも、多様な考え方に触れることは非常に重要だと考えています。

――様々な人の考え方を理解するために、学生時代に意識していたことなどはありますか?

:意識してやっていたわけではないのですが、私は中学から大学まで管弦楽部に所属していました。80人という大所帯のなかで、協調性が磨かれたように思います。また、大学時代は市民オーケストラにも参加していました。学生時代から様々な背景や年代の方々と関わった経験は、医師となってからも生きているように感じます。

――最後に、医学生へのメッセージをお願いします。

:福島は浜通り・中通り・会津の三つのエリアからなり、方言や文化など、地域の特異性が顕著です。異動のたびに、他県に旅行するような気分になれてお得だと思います(笑)。

医学生の皆さんには、「世の中には様々な人がいる」ということを知り、人との出会いを大切にしてほしいですね。様々な出会いと経験から、多くのことを患者さんに還元できる医師になってもらえたらと思います。

 

 

福島市を流れる荒川に隣接する「荒川桜づつみ河川公園」の夜桜。公園内には約220本の桜並木がある。

 

佐久間 真悠先生
2017年 福島県立医科大学医学部卒業
大原綜合病院 循環器内科

 

 

 

 

※取材:2022年2月
※取材対象者の所属は取材時のものです。