FACE to FACE

上野 裕生 × 川口 菜々子

各方面で活躍する医学生の素顔を、同じ医学生のインタビュアーが描き出します。
今回は対談形式でお送りします。

 

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川口(以下、川):2018年に上野さんが中心となり設立した旭川フレイルプロジェクトに、私は1年生の時に加入し、これまで活動に携わってきました。地域の中で学生の立場からフレイル*予防の普及に取り組むという本プロジェクトは、どのような経緯で設立されたのですか?

上野(以下、上):僕は社会人を経て医学部に編入学したのですが、同じ編入生の友人のほとんどが元医療職で、皆これまでの仕事のなかで、患者さんと対等な関係を築くことの難しさを経験していました。そこで、学生という立場を生かし、地域の人とつながることができる団体を作りたいと考えました。

題材をフレイルに決めたのは、フレイルを切り口に様々な活動ができると考えたからです。分野横断的な課題であるため、元医療職の仲間それぞれの観点から意見交換をして、新たな発見につなげたり、また外部の様々な職種の人とつながることもできると思いました。

川口さんが加入した動機は何でしたか?

:自分たちで一から計画を立ててプロジェクトを実現させるということに、部活動とはまた違う魅力を感じました。また、将来自分が医師として患者さんと接するとき、相手の背景を想像できるようになっておきたいと考えていたので、地域の方とたくさん関わることができるというのに惹かれました。

:確かに、僕たちはこれまで、様々な活動を通じて地域の方と関わってきましたよね。

コロナ禍以前は「フレイルカフェ」というイベントで、簡単にできるフレイルチェックをしたり、フレイル予防について知ってもらったりしました。また、地域のFMラジオ局の番組を自分たちで制作し、フレイル予防に関する健康情報や地域の情報を発信しました。

:コロナ禍以降は、地域の施設に高齢者を招いてリモートでインタビューを行い、そこで伺ったお話をもとにフリーペーパーを作っています。皆さんの大切にしているものや、参加している地域の活動についてお話しいただくことで、これまで地域活動に参加したことがなかった方々にも興味を持っていただければという取り組みです。

コロナ禍においては、自粛生活が長引くことで、高齢者の体が弱ったり、社会的に孤立したりすることが懸念されます。地域活動に参加する高齢者も減ってきており、私たちの活動が一助となればと願っています。

:これまでの活動を通じて、自分が医師になってから、患者さんを診ながら地域と関わっていく方法の輪郭が見えてきたように感じています。肩書きのない学生という立場だからこそ、地域の方に気軽に受け入れてもらえたことは大きな利点でした。

:上野さんの卒業後は、私たち後輩がこのプロジェクトを引き継いでいきたいと思います。

:この活動は当初、僕と友人たちだけで、もっと短期間で行う予定でした。ですが、川口さんの学年が加わってくれたことで流れが変わり、次の学年に活動を引きついでいける団体になったと感じています。これまでやってきたことにとらわれず、アイデアを出し合って皆のやりたいことをやってください。

:社会人経験のある先輩たちの中に飛び込むのは勇気がいりましたが、私たちが加わることで他の学生も参加しやすくなればいいと考えていたので、そう言ってもらえると嬉しいです。これからも、学生という立場だからこそ地域のためにできることを考え、活動していきたいです。

上野 裕生(旭川医科大学5年)
1989年生まれ。愛知県出身。大学の文系学科を卒業し、自治体職員として勤務。学士編入学後に、社会人経験のある4人の学生で旭川フレイルプロジェクトを設立し、フレイル予防の普及に取り組んできた。地域との関わりを生かして生活を支える医療に携わるため、将来はリハビリテーション科を志望。趣味はクロスカントリースキー。

川口 菜々子(旭川医科大学3年)
1999年生まれ。北海道出身。2年前に友人の誘いでフレイルカフェに参加し、この活動に興味を持つ。大学では旭川フレイルプロジェクトの他に室内合奏団に所属。バイオリンは大学から始めた初心者ながら、2022年3月に開催された第30回北日本医科学生オーケストラに参加。

 

*フレイル…加齢により心身が虚弱になり、健康な状態と要介護状態の中間であるが、適切な介入を行うことで生活機能の維持向上が可能な状態を指す。

 

※取材:2022年1月
※取材対象者の所属は取材時のものです。