地域医療ルポ
「聴く・出向く・つなぐ」を大切に
栃木県宇都宮市 ひばりクリニック 髙橋 昭彦先生
宇都宮市は人口約50万人、面積約面積約400㎢の都市。髙橋先生はクリニックから半径16kmの範囲で在宅ケアを受け付け、現在の利用者数は70名ほど。2016年、クリニックと「うりずん」は宇都宮市新里町から徳次郎町へ移転し、病児保育施設「かいつぶり」を開設。

白衣は着ない。「患者」ではなく「ご利用者」と呼ぶ。診察の前後には立ち上がって挨拶する。診察中もそれ以外の時も、相手の顔を見て話を聴く――。髙橋先生は「気構えずに話してくださいね」というメッセージを常に全身から発しているようだ。その姿勢のルーツは、自治医大の義務年限中に赴任した、滋賀県のへき地診療所にある、と先生は言う。
「外来に来る方は、皆さんよそ行きの顔をしていました。ちょっといい着物を着て、すっと紅を引いているおばあさまもいたりね。でもそういう方も、往診すると、家の顔をして寛いでいる。お子さんやお孫さんがいたり、時には猫もいたり。外来で診るだけではわからないことがあるんだと実感しました。」
義務年限終了後は自治医大の先輩に誘われ、栃木県内の病院で在宅医療に従事しつつ、在宅ケアのネットワークを築いた。栃木に「ひばりクリニック」を開業したのは、そうした人の縁があったからだった。
重症障害児とその家族を支援する認定NPO法人「うりずん」での活動など、小児在宅に関する試みが注目されることが多いが、髙橋先生は認知症のサポートや看取りにも力を入れている。年齢や疾患にかかわらず、どんな患者さんも満足できる在宅医療が、先生の目指すところだ。
「在宅医療では、提供できる医療と、本人や家族の要望の折り合いをつけることが求められます。病院での医療をそのまま在宅に持ち込んでも、どこかで不協和音が出てしまうからです。例えば、医学的には栄養を入れたり、薬を増やした方がよくても、本人や家族が希望されないなら僕はやりません。自分がやりたい医療ではなく、『そこで必要とされていること』をする姿勢が大切です。」
在宅医療のニーズが高まるなか、今後在宅に関わる医師も増えていくだろう。髙橋先生は、そうした医師には三つのことを大切にしてほしいと言う。
「一つ目は、話を聴くこと。医療を受ける方は、様々な不安を抱いています。まずはそれらをしっかり聴き、心を空っぽにしてもらうことから始めると良いと思います。二つ目は、出向くこと。在宅医療を必要とする方は、通院が困難な方がほとんどです。『患者さんの方から来てほしい』などと思わず、自分から積極的に出向くことです。そして三つ目は、つなぐこと。今は、医師だけでなく、訪問看護や訪問介護、デイケアといった様々なサービスで在宅医療が成り立っています。サービスの存在を知り、必要なところにつなげる努力をしてほしいです。」



(写真中央)「人の目を見て、丁寧に診療したいですね」と髙橋先生。
(写真右)ひばりクリニックの外観。



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