医師への軌跡
医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。
宮崎という地で多様な医師を育む医学教育を目指す
小松 弘幸
宮崎大学医学部 医療人育成支援センター
臨床医学教育部門 教授(副センター長)
多様な医師の在り方
尾関(以下、尾):私は教育学部を卒業してから医学部に再入学しました。入試の面接官だった小松先生に「文系出身者としてこれから期待している」と言っていただけたことが印象に残っています。
小松(以下、小):医師には、科学的思考である「サイエンス」と、患者さんの気持ちや意向を酌み、協調的に問題解決を図る「アート」、両方の能力が要求されます。現状の医学部入試は、数学や理科など「サイエンス」の部分に焦点が当てられていますが、尾関さんのように文系的素養である「アート」の能力を持った人にも、もっと医師を目指してほしいと思っています。それに今は、医師免許はあくまで一つの武器として、「医師」という従来の既成概念に囚われない働き方もできる世の中です。一般企業とコラボレーションするなど、他の分野と二足のわらじを履いて、学際的な活躍をすることもできると思いますよ。
尾:小松先生も腎臓内科と医学教育の二足のわらじを履いていらっしゃいますよね。
小:医学教育に携わったことで、同期ほど腎臓内科医としての経験が積めなくなってしまうことに悩んだ時期もありました。しかし二つの分野に身を置くことで、一方の知見が他方に応用できたり、腎臓内科と医学教育の双方で得た人脈をつなげることで新たなチャレンジの助けになったりしたことがありました。臨床医としての経験があるおかげで、学生や研修医との信頼関係の構築がスムーズになったという恩恵もあります。臨床医としての経験は失わないようにしながら、医学教育に携わっていくことをポリシーにしています。
また、二足のわらじには、逃げ道ができるという利点もあります。確かに仕事量を倍に感じてつらくなるときもあるのですが、一方で行き詰まったときにもう一方に視点を移すことで、問題解決の糸口が見えることもあります。自分の中でうまくバランスをとるために双方を保持している面もありますね。
尾:先生は医師としての今後に多様な道筋を示してくれるので、励みになります。
小: 学生が視野を広く持てるようにしてあげたいという気持ちで医学教育に取り組んでいます。社会が求める医師像に応えようという使命感から、真面目な人ほど医学部6年間に閉塞を感じがちな印象があるのです。確かに医師は緊張感を持って職務に当たらなければなりませんが、医師である以前に一人の人間ですから、オンとオフを切り替えて、上手に息抜きできるようになってほしいと思っています。そんな自分の人間的な部分を受け入れることができれば、患者さんに寄り添った診療ができる医師にもなれるのではないでしょうか。
宮崎県という地で
尾:宮崎大学としての医学教育は、どのようなことを目指しているのでしょうか?
小:私たちがやるべきことは二つあると思っています。全国どこで働いても遜色ない実力を持った医師を育成することと、医学生に宮崎という地に目を向けてもらうことです。
現状の宮崎県の医療は、全国でも特に秀でた特殊な何かで人材を惹きつけるというフェーズには至っていません。しかし、医学部6年間を通じて人間関係を築いたり、徐々に生活に適応していったりして、宮崎への定着を選択する学生も一定数出てくるようになりました。今の宮崎県が持っている医療資源をフルに活用した臨床実習を経験してもらうことで、このまま継続して臨床研修や専門研修も受けることのメリットを見出してもらえたら効果的だと思います。医師の偏在という問題に関しては、大きな制度設計を変えるための働きかけも必要ですが、目の前の学生を大切にして地道に頑張っていくつもりです。
小松 弘幸
宮崎大学医学部 医療人育成支援センター 臨床医学教育部門 教授(副センター長)
宮崎大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター長
1998年、宮崎医科大学医学部(現宮崎大学医学部)医学科卒業。天理よろづ相談所病院総合診療部にて臨床研修。宮崎大学医学部附属病院で内科医として勤務し、2005年に同大学医学研究科生体制御系博士課程を修了。2015年、宮崎大学医学部医療人育成支援センター・臨床医学教育部門准教授となり、2016年に同センター・副センター長(同附属病院卒後臨床研修センター長兼務)に就任。
尾関 有香
宮崎大学医学部医学科 2年
「自分が必要とされている場所で働きたい」という思いから宮崎大学医学部に入学しましたが、医学部の特殊性や出身地との土地柄の違いにまだ慣れない部分を感じていました。小松先生のお話は、自分の今までの経験を生かした医師を目指すことへの励みになりました。これから臨床実習などを通して、宮崎県の医療を体感できることが楽しみです。



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