先輩インタビュー【内科】伊藤 貴康先生(前編)
「次の専門医」を育てられる本物の専門医になりたい
専門医に求められる能力
――先生は7年目に総合内科専門医を取得され、もうすぐ腎臓内科専門医を取得する予定だそうですね。総合内科専門医を取得しようとする医師には、どのような能力がどの程度求められているのでしょうか?
伊藤(以下、伊):総合内科が扱う領域は幅広く、専門以外の分野も多く含まれます。自分の専門か否かに関わらず、コモンディジーズと呼ばれるような内科疾患は自力で診られること、これが専門医になるうえでの大前提だと思います。ずっと大学病院にいるならば、自分の専門領域だけ診ていればいいかもしれませんが、外の病院に出たらそうはいきませんからね。僕は去年まで半年ほど、へき地の病院で内科医として勤務していました。一般外来はもちろん、当直になれば24時間体制の救急外来にも一人で対応します。脳梗塞や肺炎、胆囊炎などは退院まで自分一人で診ますし、外傷や小児も含めてすべて自分一人で初期対応しました。僕の専門の腎臓内科自体、幅広い領域にまたがる科でもあるので、ここで自分の診療の幅を広げられたことは非常に大きな経験でした。
――一通りのことが診られるようになっても、「これは自分では診られない」というケースが出てくることはありますか?
伊:当然そういうことはあります。総合内科専門医には、そのようなケースをきちんと見極め、専門の先生に適切に紹介できる能力も求められていると思います。専門医だからといって、なんでもわかるというわけではありませんからね。専門医というのは、あくまで「この人はこの科について最低限のことをやっていますよ」という担保だと考えています。名刺の肩書のようなものと言ってもいいかもしれませんね。
近い将来の「目標」を立てる
――専門医試験の対策はどのくらい行いましたか?
伊:僕の場合、あまり筆記試験の対策はしませんでした。仕事が忙しくて時間がとれなかったこともあって、国試の時の方がよっぽど勉強していたと思います。
臨床研修が大学だった僕は、6年目に市中病院から大学に戻り、翌年専門医を取ったのですが、当時は病棟の中で一番年次が下でした。入院患者はほとんどが自分の担当で、日付が変わるころにようやく全員の回診とカルテ記載が終わる。翌日も朝が早いから、そこから勉強するわけにもいきません。結果的に受かりましたが、試験には「落ちたら落ちたでまた来年」というつもりで臨みました。落ちても医師の仕事はできますから(笑)。
――机に向かって勉強しなくても、日常の診療の中で実力がついていくものですか?
伊:自分の専門領域の周辺は大丈夫ですが、普段診ない領域はやはり勉強しないと難しいです。逆に僕が腎臓分野の試験問題を見ても、「こんな問題、他科の先生にわかるのか?」と驚くものは多いですね。
――専門医を取る、というキャリアは若い頃から意識されていましたか?
伊:医学部を卒業するくらいの時期から、「専門医を最短で取得すること」と「学位を取ること」の二つを、自分の目標にしていました。医師として生きていくからには、誰の目にもわかる資格を最短期間で取ることが、対外的にも、自分の自信を深めるためにも大事だと思ったからです。ただ、当時は「早く一人前になりたい」という思いの方が強く、専門医を取ることの意味なんて、正直わかっていませんでしたけどね。「専門医とは何か」というイメージは、制度について調べたり、上級医の先生方のお話を聞いたりするなかで、徐々に自分の中で構築されていきました。
研修医や学生に伝えたいのは、「目標をしっかり決める」ということですね。5年先、10年先に自分がどうなっていたいかという長期的な目標をまず持つ。そこから、それを達成するために1年後・1か月後何をすべきか、という中期的・短期的な目標を立て、そこに向かって邁進することだと思います。そうしないと、ただ毎日漫然と過ごすだけで終わってしまいますから。
先輩インタビュー【内科】伊藤 貴康先生(後編)
ジェネラルと専門性のバランス
――腎臓内科専門医を取得されたら、今後は内科全般を診るよりは、専門性を高めていくことがキャリアの中心になりますか?
伊:もちろん腎臓内科の専門性を磨いていくつもりではあります。ただ、医局が総合内科の病棟も含んでおり、僕はそこで若手を指導する立場なので、内科全般の知識もアップデートし続けられると思います。腎臓内科が扱う領域は幅広いですから、「腎臓だけ診ていればいいという意識ではだめだ」ということは、医局に入った時にもよく言われました。この考え方は、今の自分の姿勢にも色濃く影響していますね。僕は今、専門医として「専門領域以外も広く診ることが大事」と言いますが、腎臓内科専門医を取れば、極端な話、「これはうちの領域じゃないよ」と言うこともできてしまう。二つの立場にどう折り合いをつけるかという話になります。でも、僕の土台はあくまで「内科」であり、腎臓などの専門領域は、その上に2階建てのように乗っかっているという感覚なんです。腎臓内科専門医を取得してからも、内科の全ての領域を診るという考え方は、ずっと持ち続けるべきだと思っています。
専門医を育てられてこその専門医
――腎臓内科専門医を取得後、次の目標にはどのようなものを考えていますか?
伊:臨床研究をしっかりやることと、あとは人材育成に力を入れていきたいと思っています。僕の中には、「次の専門医を育てられてこそ、本物の専門医だ」という意識があるので。それに、他者を指導することは、講義を受けたり読書したりという受け身の行動よりもずっと、自分自身を伸ばす近道なんです。
僕は学生時代、「良い医療者を目指す学生研究会」という部活の初代部長を務めていました。単なる試験対策ではなく、「基礎医学を押さえたうえでの臨床問題の解決」と、「社会的な勉強」の二つを軸に、部の基礎を築いたんです。部長である間も、引退してからも、下級生にずっと講義していましたね。この経験は大きな転換点になりました。
医師になってからの転換点は、8年目に初めて後輩が入ってきた時です。今までは、自分一人でがむしゃらにやっていればよかった。でも後輩ができると、自分でやった方が早い仕事でもずっと見守って、後輩が帰った後に穴埋めをしなければならない。当時はジレンマを抱えましたが、これをやらないと後輩の成長はないんですよね。
専門医を取る時点で求められるのは、最低限患者さんが困らないように対応できる力です。そして、専門医になった後は、次の専門医を育てる役割を担っていく。これができて初めて、真の専門医と言えるのではないかと僕は思います。
伊藤 貴康
三重大学医学部附属病院 腎臓内科 助教
2007年 三重大学医学部卒業
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