
まだまだ知りたい専門医、どうなるの?(1)
Q.専門医には、どのくらいの専門性が求められるのでしょうか?
A.どの領域の専門医にも共通して求められるのは、その診療領域における「標準的な医療」を提供できることです。極端に深い知識や卓越した技能がなければ専門医になれない、というわけではありません。
また、特に基本領域の専門医資格を取得することは、専門性を支える、医師としての基本的な能力を修得することも意味します。新たな仕組みでは専門性だけでなく、ジェネラルな能力も重視されているのです。
Q.私も専門医資格を取らなければならないんですか?
A.厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」では、「医師は基本領域のいずれかの専門医を取得することを基本とする」ことが適当だとされました。
とはいえ専門医の仕組み・専門医制度は、法令として規定されているものではありません。なぜなら、議論の背景に、医師の専門性は法や制度に規定されるべきものではなく、プロフェッショナル・オートノミー(専門家による自律性)によって担保するべきものである、という考え方があるからです。新たな専門医の仕組みづくりは、専門医機構をはじめ、医師会、各学会、病院団体など、医師の専門職集団が協働して、自主的に専門医の質を向上していこうとする取り組みなのです。
Q.専門医資格を持っていると、どういう利点があるんでしょうか?
A.「いずれかの基本領域の専門医資格を持っている」ということは、専門領域に進んだ医師として一定のレベルに達していることを意味するようになると思います。しかし、専門医資格の有無が、医師の優劣を決めるわけではありません。あくまで医師の自己研鑽の一つの手段として捉えるべきだと私は思います。
なお、わが国では麻酔科以外の診療科については自由に標榜することができます。実際に多くのかかりつけ医が、その地域で求められる複数の診療分野を標榜しています。ですから、専門医資格の有無は、その分野の診療を行えるか否かに影響するわけではありません。むしろ専門医資格取得の中心的なメリットは、患者や他の医療者からの一定の信頼を得られることであると言えるでしょう。
Q.専門研修は大学病院でしか受けられないのですか?
A.そんなことはありません。領域によっては、基幹施設の多くが大学病院になる可能性はありますが、それぞれの領域で定めた基準を満たせば市中病院が基幹施設になることもできます。基幹施設になるには、臨床研修指定病院として厚生労働大臣が指定している病院と同等の基準を満たすということになっていますが、単科病院でも各学会の条件さえ満たせば基幹施設になれるとされています。
大学病院にせよ市中病院にせよ、新たな専門医の仕組みでは、研修の質が一定の水準を満たすかどうかを学会および専門医機構が審査することになります。皆さんは、認定されたプログラムの中から、自分の希望する強みや特徴を持ったプログラムを選ぶことで、専門医へのキャリアを着実に歩むことができるでしょう。

まだまだ知りたい専門医、どうなるの?(2)
Q.専門研修中に産休・育休を取ると、専門医資格の取得が遅くなりますか?
A.専門研修の時期が結婚・出産を考える時期と重なり、出産や育児によって一時的に専門研修を中断する方も少なくないでしょう。新整備指針では、全ての基本領域に共通して、海外留学、妊娠・出産・育児、介護、自身の病気療養などのために研修を続けることが困難な場合、申請により研修を中断できることになっています。
また、中断期間が6か月以内であれば、症例数などが揃うことを条件に、研修期間の延長をしなくても良いと定められました。ですから、産休や育休を取ったとしても、6か月以内であれば最短の期間で専門医資格を取得することができます。
Q.途中で長期の育休を取ることになったら、専門研修は最初からやり直しになるのでしょうか?
A.先に紹介したような特定の理由での中断の場合は、中断前の研修実績は復帰後に引き継げるとされています(中断が6か月以上に及んだ場合も同様です)。ですから、出産や留学の予定があるからといって専門研修を諦める必要はなく、指導者と相談しながら少しずつ経験を積むことで専門医への道が開けるでしょう。
Q.自分の進む診療科は、早い段階で決めておいたほうがいいのでしょうか?
A.もちろん学生のうちから診療科を決めても構いませんが、将来の進路については、簡単に決められない人も多いでしょう。学生時代の志望があったとしても、臨床研修医として実際に患者さんに接するうちに、志望が変わる人もたくさんいます。早い段階で希望の診療科が決まっていなかったとしても、臨床研修や専門研修を行うにあたって不利になることはありません。
Q.臨床研修病院を選ぶ時点で、考えておくべきことはありますか?
A.臨床研修の経験を通じてその後のキャリアに関する考え方も変化していくことが多いので、専門研修をことさらに意識して臨床研修病院を選ぶ必要はないのではないかと思います。
参考までに、新整備指針には「卒後臨床研修で修得した事項を、専門研修で修得すべき事項に含むことができる」と定められています。各領域の規定によりますが、卒後臨床研修で経験した症例を、専門研修の症例に含められる場合もあるのです。早めに専門研修を意識して経験を積みたい場合は、志望分野の先生に相談してみるのも良いかもしれません。

まだまだ知りたい専門医、どうなるの?(3)
Q.領域によって専門医資格の取りやすさに違いはあるのですか?
A.領域によって到達基準やプログラム整備指針に若干の違いはありますが、分野を超えて専門医の質を標準化することが、新たな仕組みの考え方の核にあります。そして、それぞれの研修プログラムは学会および専門医機構の認定を受ける必要があるので、専門医資格の取りやすさに大きな違いはなくなってくるのではないでしょうか。
Q.専門医資格を取得するまでの道のりを思うと、一度領域を決めたらもう後戻りはできない気がして不安です。
A.新たな専門医の仕組みでは、専攻医の募集は公募・公表が原則になるので、これまでよりは進路の変更もしやすくなるはずです。ただし専門研修はプログラム制なので、別の領域に移る場合は1年目から再スタートすることになります。
専門医取得という観点では、進路変更をするとそれまでの経験がリセットされると感じられるかもしれません。しかし医師としての知識や経験は、どの分野に移ったとしても無駄になることはありません。出産・育児も、留学も、研究も、別の分野での経験も、全ては医師としての血肉となるでしょう。最短コースを歩むことだけがキャリアの正解ではないことを強調しておきたいと思います。
Q.複数の基本領域の専門医資格を取得することはできるのですか?
A.新整備指針には、ある基本領域の専門医となった医師が、その後別の基本領域学会の専門医資格を取得すること(「ダブルボード」と呼ばれます)は妨げない、と明記されています。つまり、同時に複数の領域の専門研修を受けることはできませんが、ある領域の専門医資格を取得した後に、別の基本領域の専門研修を受けることは問題ない、ということになります。
かなり経験を積んだ医師でも、例えば外科でがんを専門に診ているうちに、精神面での緩和に関心を持って精神科の勉強を始めるといったことがあります。医療の世界は奥が深く、興味ある分野を追求した結果、様々な領域にまたがったキャリアを積むことも珍しいことではありません。
Q.専門医資格は、医師免許のように一度取得すれば一生保たれるものですか?
A.新整備指針では、原則として5年ごとに専門医資格の更新を行うことが定められています。更新の具体的な基準は各基本領域学会で決めることになりますが、勤務実態や診療実績に加え、一定の講習会や学術活動への参加が必要になります。
また、連続して3回以上の更新を経た経験豊富な専門医については、診療実績の証明を免除することになっています。これは、管理業務や後進の指導にあたることで、専門医の資格を維持できなくなるのを防ぐためでもあります。

まだまだ知りたい専門医、どうなるの?(4)
Q.専門医資格取得後に出産・育児・介護などでブランクが生じると、専門医資格は維持できないのでしょうか?
A.新整備指針では、妊娠・出産・育児、留学、病気療養などの特定の理由で専門医の更新が困難な場合、本来更新すべき年に申請することによって、更新延長することができると定められています。延長期間は原則1年ですが、事情によってはさらに1年単位で延長することも可能です。
ですから、ある程度の期間のブランクが生じたとしても、復帰後に求められる診療実績が確保できれば、専門医資格を更新することができると考えられます。
Q.総合診療領域やサブスペシャルティ領域については、いつ詳細が決まるのでしょうか?
A.総合診療領域については、領域を担当する学会がまだ決まらず、関係する団体で議論が進められています。詳しいことが決まったら、専門医機構のWEBサイトや、本誌でお伝えしていきます。
サブスペシャルティ領域については、専門医機構が中心となってこれから3年をめどに調整し、基本領域学会とサブスペシャルティ学会が協働して制度を作ることになっています。内科・外科などサブスペシャルティの取得が前提になる分野を志望する方は、状況が見えず不安になるかもしれませんが、2018年度のプログラム募集に向けて具体化されていくはずですので、もう少しお待ちいただければと思います。
Q.なぜ日本医師会は、新たな専門医の仕組みに対してストップをかけたのですか?
A.専門医に限らず、私たちが医師養成のプロセスを考えるうえで大切にしているのは、「医療は医師のものではなく、国民のためのものである」ということです。国民に信頼される専門医を養成するために、地域の医療提供体制が崩壊するのは本末転倒です。新たな仕組みを導入するにあたっては地域医療に急激な影響が及ばないように配慮することが必要との考えから、このまま進めて良いのかという疑問を呈しました。
地域医療への影響ももちろんですが、今回の本誌の取材を通して、専門医機構における議論で現役医学生の意見を聞く場がなかったのも問題だと感じました。学会や団体のトップが集まって議論することも重要ですが、実際に研修を受ける人たちの生の声を聴くことも大切だと、改めて感じております。本誌などを通じて医学生の声を集め、専門医機構に伝えていくのも日本医師会の大事な役割です。ぜひ、皆さんの疑問や思いを寄せていただければと思います。
皆さんの声、待ってます
現役医学生の率直な意見を専門医機構に届けることは、私たちの責務です。皆さんが新たな専門医の仕組みに何を求めるのか、どのような不安を感じているのか、ぜひ教えてください。ご意見はフォームよりお願いします。
羽鳥 裕先生
日本医師会 常任理事
日本専門医機構 理事



- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04

- 医師への軌跡:岡部 正隆先生
- Information:Winter, 2017
- 特集:新たな専門医の仕組み(前編)
- 特集:専門医になるまでの医師のキャリアのロードマップ
- 特集:どうして専門医の仕組みを見直すことになったのですか?
- 特集:今までの専門医制度と何が変わるのですか?
- 特集:まだまだ知りたい 専門医、どうなるの?
- 医科歯科連携がひらく、これからの「健康」② 口腔ケアの充実で合併症を減らす
- 同世代のリアリティー:番外編 1型糖尿病 前編
- 地域医療ルポ:神奈川県横浜市中区|ポーラのクリニック 山中 修先生
- チーム医療のパートナー:事務職員/アシスタントプロデューサー
- チーム医療のパートナー:事務職員
- 10年目のカルテ:公衆衛生医師 高橋 千香医師
- 10年目のカルテ:医系技官 櫻本 恭司医師
- 医学教育の展望:医学生と教員が対話し、医学教育の未来を考える
- 医師会の取り組み:平成28年熊本地震におけるJMATの活動
- 大学紹介:北海道大学
- 大学紹介:慶應義塾大学
- 大学紹介:岡山大学
- 大学紹介:佐賀大学
- 日本医科学生総合体育大会:東医体
- 日本医科学生総合体育大会:西医体
- グローバルに活躍する若手医師たち:日本医師会の若手医師支援
- FACE to FACE:中尾 茉実×佐伯 尚美