医師への軌跡
医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。
患者さんとの対話を大切に情熱を持って学生と向き合う
河村 朗夫
国際医療福祉大学医学部循環器内科学 主任教授
患者さんを思いやる
古川(以下、古):河村先生が循環器内科を志した理由をお聞かせください。
河村(以下、河):医師を志した当初は一人で何にでも対応できる医師になりたいと思い、手術ができる外科医を目指そうと考えていました。しかし、医学部で学ぶうちにもっと広く深く医学を探究したくなり、まずは内科医を目指すことにしました。
研修医として内科の様々な科を回っていたある日、受け持ちの患者さんが突然倒れる場面に遭遇しました。なす術もなく呆然としていたら、循環器内科の先生が颯爽と現れ、手際よく心肺蘇生など適切な処置を施すと、患者さんが息を吹き返したのです。その鮮烈な印象に、循環器内科への進路を強く意識するようになりました。
また、当時は胸を切らずに血管の中から心臓の病気を治すカテーテル治療が普及し始めた頃でもありました。カテーテル治療で瞬く間に良くなる患者さんを目の当たりにして、循環器内科へ進む決心を固めました。
古:循環器内科医となってからは、2年半のアメリカ留学の経験をお持ちですが、印象に残ったエピソードはありますか?
河:英語の資格は持っていましたが、流暢に会話できるわけではなかったので、看護師から電話がかかってくると、自宅にいても夜中でも、病院に行って話を直接聞くようにしていました。その結果、呼べばいつでも必ず来てくれる良い医師だと評価されたのです。
また、患者さんからは、「アメリカ人の医師よりもわかりやすい言葉で説明してくれて、自分の話もよく聴いてくれる」と感謝されました。英語の不自由さから、聞き逃さないよう患者さんの言葉に耳を傾け、簡単な言葉でゆっくり説明したことが、かえって良かったようでした。
これらの経験を通じて、こちらの姿勢や言葉の選び方の工夫によって、コミュニケーションは全く変わってくるのだと感じました。このこともあり、患者さんとは「先生に会えてよかった」と思ってもらえるような会話ができるよう心がけています。どれほど医学が進歩しても、患者さんを全員助けることはできません。それでも、生きている間は少しでも楽しく幸せな気持ちになってもらいたいのです。
古:確かに先生とお話ししていると、常に相手と円滑にコミュニケーションを図れるよう工夫されているように感じます。
河:患者さんと接する際、言葉の使い方に気を付けてほしいということは、学生にも伝えていきたいと思っています。
医師ならではの魅力を伝える
古:先生は僕たちに、どのような医師になってほしいと望んでいらっしゃいますか?
河:医学部での生活は、勉強は大変でも、新しい発見に触れることが多く、刺激的で楽しい日々ではないでしょうか。医学生の皆さんには、実習などに積極的に参加して、貪欲に学んでほしいと願っています。
とはいえ医師として社会に出れば、ミスなく完璧に仕事をすることを求められ、辛いことにも多くぶつかります。医学生の皆さんもその現実をいずれは知ることになるでしょうし、私からもその厳しさを伝えていかなければと思っています。
その一方で報われることもたくさんあります。医師は他の職種と比べると、感謝の言葉をかけていただく機会が多く、非常に恵まれた仕事だと思っています。患者さんとして様々な方と出会い、ときにはプライベートを明かしてもらって、楽しいことや悲しいことを共有できるのも医師ならではだと思うので、その魅力も伝えたいですね。
国際医療福祉大学は、日本で一番新しい医学部を持つ大学です。1期生の皆さんが一人前の医師になり、「君たちに僕の命を任せるよ」と言える日が来るのを楽しみにしています。
河村 朗夫
国際医療福祉大学医学部循環器内科学 主任教授
国際医療福祉大学 成田病院 副院長
1994年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院で研修を行う。1998年、慶應義塾大学病院に勤務。2004年、マサチューセッツ州医師免許を取得し、マサチューセッツ州バーリントンのレイヒー病院にて心血管インターベンションの臨床フェローとして治療・教育に従事。2007年、慶應義塾大学医学部循環器内科専任講師。2015年、防衛医科大学校循環器内科准教授。2017年より国際医療福祉大学医学部循環器内科学主任教授。
古川 紀光
国際医療福祉大学医学部医学科 5年
河村先生は以前から、情熱的で学生思いという印象がありました。今回、患者さんとのコミュニケーションでは相手を思いやって言葉の選び方を工夫しているというお話を聞き、感銘を受けました。自分自身を振り返っても、言葉一つで嬉しくなったり落ち込んだりすることがあるので、しっかり言葉を使いこなせる医師になりたいです。
※取材:2021年5月
※取材対象者の所属は取材時のものです。



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