
かつて国民の多くは「医師」という存在を無条件に信頼していた。
しかし社会の情報化が進み、医学の専門分化も進むなかで、意識が高まった国民は「専門性の高い医師」を求めるようになった。
そしてその求めに応えて、様々な分野で「専門医」の認定が行われるようになった。
いまや多くの専門医資格が乱立し、その質の基準もまちまちになっている。
このままでは、国民はもちろん、医師たち自身も「専門医」を信頼できなくなってしまう。
そこで医療界は、分野や立場を超えて「信頼される専門医」の仕組みの再構築を始めた。
「医師」という存在が無条件に信頼されていた時代
国民の多くは「医師」という存在を無条件に信頼しており、その専門性や経験を保証する必然性も低かった。地域で活躍する医師は「どんな病気も怪我も診る」のが当たり前であり、専門性の高い医療を行う環境も十分に整ってはいなかった。昭和36年に国民皆保険が実現し、医育機関や中核病院の整備が進んでいった。医療の専門分化も進み、多くの国民が専門的で高度な医療を求めるようになっていった。
医療の専門分化が進む学会・専門医の乱立
目覚ましい医学の進歩のなかで、医師はそれぞれの専門性を深め、研究や治療技術の向上に努めた。しかし我が国は自由標榜制*を取っているため、一般市民には専門性の高い医師を見分ける術がない。そこで各専門分野の学会は、自らの専門分野で一定の専門性を発揮できる医師を「専門医」として認定し、その分野の診療の質を担保するようになった。
こうして我が国では、様々な分野で様々なレベルの専門医が乱立することとなった。
国民も医療界も「専門医」の信頼性に疑問
多くの「専門医」資格が乱立した結果、「それぞれの専門医資格が、どの程度の専門性や診療能力を保証するものなのか」がわかりにくくなってしまった。このままでは、国民の「専門医」に対する信頼は低下し、医師も自らの専門性を適切に示せなくなってしまう…。そうした危機感から、専門医のあり方を見直す動きが医療界で自律的に始まった。しかし、それぞれの分野が独自に構築してきた専門医資格を、医療界全体で横断的に見直すことは簡単なことではなかった。
信頼される「専門医」の仕組みの再構築へ
2011年、厚生労働省が「専門医の在り方に関する検討会」を組織したことで、新しい専門医の仕組みの構築に向けた動きは加速した。2014年には検討会の報告書をもとに、第三者機関として日本専門医機構が発足し、新たな仕組みの構築が具体的に始まった。分野ごとの背景や事情の違い、地域医療に及ぼす影響など論点は多岐にわたり、新制度のスタートは当初の予定より遅れたが、2018年4月、生みの苦しみを乗り越え、新しい専門医制度がスタートした。
* 自由標榜制…医師が自身で標榜する診療科を自由に選べる制度(麻酔科を除く)。



- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04

- 医師への軌跡:河村 朗夫先生
- Information:Summer, 2021
- 特集:「専門医」がわかる 国民に信頼される専門医制度をつくるために
- 特集:専門医には何が求められるのか
- 特集:専門医を養成する仕組み
- 特集:専門研修プログラムをどのように選ぶか
- 特集:専門医のソノサキ
- 特集:専門医への道のり 内科系
- 特集:専門医への道のり 外科系
- 同世代のリアリティー:コロナ禍で入社して 編
- チーム医療のパートナー:栄養サポートチーム
- Blue Ocean:岩手県|畠山 翔翼先生・畠山 彩花先生(岩手県立中央病院)
- 医師の働き方を考える:家族と共にスウェーデンで医師として生きる
- 日本医師会の取り組み:薬事における日本医師会の役割
- 日本医師会の取り組み:医師の働き方改革と地域医療
- 日本医科学生総合体育大会:オンライン東西医体座談会
- 授業探訪 医学部の授業を見てみよう!:産業医科大学「スポーツ傷害と整形外科」
- グローバルに活躍する若手医師たち:日本医師会の若手医師支援
- 医学生の交流ひろば:1
- 医学生の交流ひろば:2
- 医学生の交流ひろば:3
- FACE to FACE:天野 将明 × 田邉 翼