日本医師会の取り組み
健康スポーツ分野における様々な取り組み

日本医師会のスポーツ分野に関する様々な取り組みについて、長島公之日本医師会常任理事に聴きました。

大規模イベントへの働きかけ

――医師会における長島常任理事の活動について教えてください。

長島(以下、長):私の担当分野の一つは「健康スポーツ」です。この分野での取り組みの一つとして、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会に関する提言があります。2016年、東京都医師会と共同で大会中の熱中症対策や訪日外国人に対応可能な緊急搬送体制の充実などを求める要望書を国や都に提出して以来、医学的観点に基づいて提言を重ねています。

例えばマラソン・競歩が午前7時開始と発表されたことを受け、中京大学の松本孝朗教授が実際に同時期・同コース・同時間帯で気温や湿度などを測定し、熱中症リスクと対応策を明らかにしました。日本医師会・東京都医師会共同で「5時半スタート」を求める要望書を関係各所に提出しました。その結果、組織委員会も競技の午前6時開始を検討し、最終的にはIOCもマラソン・競歩の札幌開催を提案し、決定に至ったのです。

オリンピックに限らず、大規模イベントの開催は地域医療に大きな影響を与えます。例えば交通規制は患者の受診行動や薬剤・医療材料の配送に影響を与えますし、大量の熱中症患者が出れば、その地域の救急医療に危機が生じます。その他、テロ等への入念な対策も必要です。そこで日本医師会では、国内で大規模なスポーツイベントが多数開催されることを機に、「大規模イベント 医療・救護ガイドブック」を作成しました。今後もイベントが医療に与える影響を広い視野で捉え、提言していきたいと思います。

健康スポーツ医制度

――大きなスポーツイベントが続いたことで、国民のスポーツへの関心も高まっていますね。

:はい。その関心を健康づくりに結びつける活動も行っています。現在、厚生労働省の健康寿命延伸の統一標語は「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」であり、日本医師会としても運動による健康増進、健康寿命の延伸は極めて重要だと考えています。しかし、食事や栄養、禁煙に比べ、運動については環境整備が十分とは言えません。日本医師会では平成3年から「日本医師会認定健康スポーツ医制度」を運営しており、2019年には「健康スポーツ医学委員会」を「運動・健康スポーツ医学委員会」と改め、運動の重要性を強調する姿勢を明確にしました。

――他の協会や学会のスポーツ医認定制度と比べ、健康スポーツ医制度の特徴は何ですか?

:他のスポーツ医認定制度は、競技スポーツ分野や、運動器障害の専門的な診療を主眼にしています。対して健康スポーツ医制度は、「健康づくりのための日常的な運動」により重きを置いており、すべての診療科の医師に開かれています。

運動はあらゆる年齢層の健康づくりに非常に重要です。例えば学校では、運動のし過ぎで身体を壊す子どもと全く運動をしない子どもの二極化が問題になっています。運動器検診の普及により、運動器異常の早期発見や、適切な運動習慣の形成を促す必要があります。職場では、運動の機会が減少しがちな働き盛りの世代に対するアプローチが求められます。また、高齢労働者の増加に伴い、転倒や腰痛など運動器に関わる労働災害が増えており、運動による労働災害予防も重要です。

健康スポーツ医が行政や地域の各機関と連携することで、今後、安全性と有効性を確保しながら運動による健康づくりを促す体制が地域に根付いていくことが期待されます。

私と医師会活動
医療とIT、技術と人の懸け橋になる

好きなことを追求すると、いつか実を結ぶ

――長島常任理事が医師会活動に関わるようになった経緯をお話しいただけますか?

:もともと医師会活動への興味は薄かったものの、趣味のITが高じて気付けば日本医師会に来ていました。ちょっと珍しいパターンかもしれません。

私は1992年に開業しました。大学病院では大勢の医師と情報共有でき、図書館で資料もすぐに手に入りますが、開業したらひとりぼっち。話し相手もおらず、新しい知識を入れる機会もない。何かできないかと調べたところ、パソコン通信によって、医療関係者が集うフォーラムや、開業医のコミュニティが形成されていると知り、全国の医師と交流を始めました。その後インターネットが普及し、医師や医療関係者のメーリングリストができ始めます。私はその初期メンバーとして様々な発信をしていました。

やがて、医療界にもIT化の波が押し寄せるようになります。すると、上記のような活動をしているからと、地元の郡市区等医師会や日本臨床整形外科学会、栃木県医師会からお声がかかり、情報化推進委員などとして活動するようになりました。そうして顔を出しているうち、ひょんなことから郡市区等医師会の理事を任され、2年ほどすると今度は「これからはITの時代だ」と栃木県医師会の常任理事に推薦されました。その後、日本医師会の医療IT委員会に「詳しそうだから」と送り出され、今に至っています。

このように、「開業して寂しいから仲間がほしい」と思って趣味で始めたITが、今の私の活動の起点となりました。若い皆さんには、自分の好きなことが何かのかたちで医療や仕事に結びつくことがあると伝えたいですね。

――これまでどのような活動をされてきましたか?

:代表的なものは、栃木県医師会の「とちまるネット」です。これは患者さんの同意のもと、県内の医療機関の間で診療情報等を共有し連携するためのネットワークです。

また、在宅医療における医療介護連携を促進し、地域包括ケアを実現するための「どこでも連絡帳」の立ち上げにも関わりました。多くの地域では「とちまるネット」のような医療機関同士の連携ツールをそのまま医療介護連携や多職種連携にも使用しています。ですが私の考えでは、医療連携と医療介護連携・多職種連携は全く内容が異なります。医療連携ではデータの共有が基本ですが、多職種連携においてはそれだけでは不十分で、多職種同士がしっかりとコミュニケーションをとれるようなICTが必須です。そのようなニーズを受け誕生したのが「どこでも連絡帳」です。このように、医療連携と医療介護連携を別々のシステムとして県全域で導入したのは、栃木県が初めてでした。

――医師会活動のやりがいはどのような点にありますか?

:今やITは医師会活動や医療そのものに直結しています。自分の知識を使って、医療現場の役に立つ、ひいては国民のためになるアイデアを提供できたときは、やりがいを感じます。国民に寄り添うという立場で、なおかつ各方面に影響力を及ぼしながらアイデアを実現させていける場は、恐らく日本医師会以外にはないでしょう。

ITの専門家は世の中にたくさんいますが、現場感覚を持たない人だけでIT化を進めても、現場では使いにくいものになってしまう。一方、「ITの新しい技術を活かしたい」という発想なしに、現場からのボトムアップだけに頼っても、良いものは生まれにくい。私のような、医療現場を知っており、かつITにもある程度詳しい人間が医師会にいる意義は大きいのではないかと思います。今後も、技術と人をつなぐ役割を果たしていければ、大変嬉しく思います。

長島 公之
日本医師会常任理事