医師への軌跡
医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。
無駄な経験は何一つない 自分の興味を大切に
三木 淳
東京慈恵会医科大学附属柏病院 泌尿器科 診療部長・准教授
外科から泌尿器科へ

大導寺(以下、大):先生は一般外科で研修をされてから泌尿器科に進まれたそうですね。その経緯についてお聞かせください。
三木(以下、三):当時は卒業してすぐに科を決めなければならなかったのですが、外科と泌尿器科とで非常に迷っていたのです。そこで、広く外科系に興味があったことと、大学の外で研修したいという思いから、当時多くの研修医を採用していた国立国際医療研究センターの外科に入局しました。
一般外科を一通り回ったものの、やがて泌尿器科の扱う疾患の幅広さに関心を持つようになりました。手術も、開腹・ロボット・腹腔鏡・経胸式など多彩で、これほどダイナミックな科は他にはないと思ったのです。
結局、2年遅れで泌尿器科に進むことを決めましたが、当時の外科での経験は貴重な財産となっています。急患を積極的に受け入れ、絶え間なく技術を磨く外科の姿勢は今でも尊敬していますし、見習いたいと思っています。
大:先生は留学もされたそうですね。
三:アメリカで3年ほど基礎研究をしました。基礎研究の留学は、日本で博士号を取得してから行くのが一般的ですが、自分の場合は少し特殊で、向こうで一からのスタートになってしまいました。しかし取り組むうちにだんだん研究の面白さがわかり、周りからの評価もついてきました。また、様々なルーツを持つ人々や、多様な文化に触れ、日本や自分の価値観が全てではないことを痛感しました。逆境のなかでたくましく生きる人々を目の当たりにしたことと、向こうの先生から評価されたことは、どのような所でも懸命に努力すれば生きていけるという自信につながりました。
しかし研究を続けるなかで、自分が本当にやりたいことは手術だと気付いたのです。そこで帰国する際、手術の経験が足りないので教えてほしいと、東京慈恵会医科大学附属病院の先生に手紙を書きました。移植手術の下働きから始めて様々な手術経験を積み、今に至っています。
学んだことは必ず活きる
大:泌尿器科は近年、医学生や若手医師から注目を集めつつある科の一つですね。
三:高齢化により、前立腺肥大や前立腺がんをはじめとする加齢に伴って起こる疾病が増え、ニーズが高まっていることが大きいと思います。また、10年前からロボット手術が保険適用となり、最先端の技術を駆使した手術を行っていることも大きいようです。
大:先生は現在、どのようなことに精力的に取り組んでいらっしゃるのですか?
三:ロボット手術によりいっそう力を入れていきたいと考えています。本学内でも先駆けてロボット手術を実践している泌尿器科が他の科も巻き込んで、大学全体で推進できるようにしたいです。
また、地域の施設との医療連携を深めることにも関心があります。近隣の病院に当院の泌尿器科医を積極的に派遣することで、より多くの患者さんにきめ細かな処置を行ったり、互いの若手を指導し合ったりすることができるのです。
大:私は今、進路の一つとして泌尿器科を検討しています。どのような資質を育んでいけば良いのでしょうか?
三:泌尿器科に役立ちそうなことだけを学ぶという姿勢はお勧めしません。何を勉強しても最終的には自分の専門に活かせるので、その時々にやりたいこと、興味のあることを、悔いなく学んでほしいです。指導する立場としても、個性を伸ばせる環境を整えたいと思っています。
また、手術には器用さも大切ですが、熱意と継続が何よりも重要です。自分ももっと腕を磨きたいと思っていますし、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。
三木 淳
東京慈恵会医科大学附属柏病院 泌尿器科 診療部長・准教授
1998年、東京慈恵会医科大学卒業。同年、国立国際医療研究センター外科入局。2004年、米国メリーランド州前立腺疾患研究センターにて博士研究員。2007年、東京慈恵会医科大学附属病院泌尿器科診療員。2012年同大学附属柏病院泌尿器科診療員。2018年4月より現職。
大導寺 清世
東京慈恵会医科大学医学部 5年
将来を見据える時期になり、様々な選択を迫られている今、先生からの力強いお言葉を頂けて良かったです。今の自分は、得意なことは何か、何に興味があるのかを探す期間でもあるのだと感じました。お話を聴いたことで、新たな視点を持ってこれからの日々に臨むことができそうです。
※取材:2022年6月
※取材対象者の所属は取材時のものです。



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