医師への軌跡

医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。

医学部で身につけた広範な知識を武器に基礎研究の世界へ
柳沢 正史
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長・教授

研究の場で生きる母校の学び

広川(以下、広):先生は睡眠に関する基礎研究を行っていらっしゃいます。なぜ臨床医ではなく研究者の道に進もうと思われたのでしょうか?

柳沢(以下、柳):子どもの頃からの夢でもあったのですが、医学部を出て研究者になるという選択は生涯で一番大きな決断でした。それを後押ししたできごとが二つあります。一つは、交換留学でオーストラリアに3か月行ったことです。当時から筑波大学では、6年生は学外の病院に実習に行くのが一般的で、私はニューカッスル大学の消化器外科の臨床教授のもとで学びました。ここで、当時の日本の医療では一般的でなかったインフォームド・コンセントを行う場面に何度も同席し、臨床における日本と海外の哲学の違いを目の当たりにしたのです。患者の意思が治療方法の選択に反映されにくい当時の日本の医療に疑問を感じ、臨床よりも研究の道に進みたいと感じるようになりました。もう一つの理由は、筑波大学の集中的な臨床実習を通じて、臨床医とも意思疎通ができる共通言語を身につけられたと感じたことです。たとえ将来、実際に患者さんを対象にした研究をすることになっても、自分は臨床医と共同研究できるだろうという確信が得られ、基礎研究の道に進もうと決めました。

:どうして6年生の時点でそこまで確信できたのですか?

:3年生の頃から本気で勉強したからでしょうね。単に暗記するのではなく、覚えなければならない要素を自分なりに系統立てて、一つずつ結びつけて学ぶようにしたら、知識を吸収するのが面白くなったのです。当時まだ珍しかった筑波大学の臓器別のカリキュラムも私に合っていたのかもしれません。こうして医学部で広範な知識を得られたことは、どの分野の研究をしていても「一度どこかで勉強をしている」という感覚を抱けるため、今でも自信につながっています。

「明後日の患者」を治す

:睡眠研究の面白さはどのような点にありますか?

:睡眠学は発展途上の分野です。睡眠不足は生活習慣病の悪化につながり、睡眠時無呼吸症候群は高血圧や脳卒中などのリスクを高めるのですが、医学部ではあまり教えられていません。睡眠関連の疾患は診断が難しく、治療が行き届いていない部分もあります。

しかし、だからこそやり甲斐もあります。私がCSOを務めるベンチャー企業では、簡易に睡眠時の脳波を測ることができるウェアラブルデバイスを開発しました。これは通常の睡眠ポリグラフ検査の大掛かりな装置ではなく、自宅でも使用できます。デバイスから得たデータを集積し、ビッグデータとして活用できれば、食品や寝具、住宅などの産業に役立つほか、新しい医薬の開発に結びつくなど、様々な可能性があります。また、健診オプションとして使うこともできるでしょう。

:先生は社会を変えるような先駆的な研究をなさっていますが、学生時代からそのような志を持っておられたのでしょうか?

:いえ、まだ誰も知らないことを見つけたいという純粋な好奇心が、私の原動力だと思います。ただ、基礎医学に進むことを決めたとき、「自分は明後日の患者を治すんだ」と言っていました。自分の発見が新薬などの新しい医学の創生につながる。研究者としてこれほど幸せなことはないと思いますね。

:最後に、医学生に伝えたいことはありますか?

:臨床医であっても、研究者としての好奇心や探求心を持ち続けてほしいです。また、外国に興味を持ってほしいですね。大学のシステムを活用するなどして、ぜひ学生のうちに一度は外国に行ってみて、視野を広げてほしいと思います。

柳沢 正史
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長・教授
1985年、筑波大学医学専門学群卒業。博士課程修了後、同大学基礎医学系講師、京都大学医学部講師を経て1991年に渡米、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授とハワード・ヒューズ医学研究所研究員を併任。2010年内閣府最先端研究開発支援プログラムに採択され、筑波大学に研究室を開設。国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。株式会社S’UIMIN取締役会長・CSO。

広川 大信
筑波大学医学群医学類 3年
研究者という道で世界のトップを走っておられる先生に直接お話を伺うことができ、非常に刺激を受けました。自分の興味のある分野について突き詰めていくことの重要性に気付かされた気がします。様々な分野を広く勉強することも大切ですが、同時に興味のある分野について深く貪欲に勉強し続ける医師になりたいと思いました。