思った通りにいかなくても、落ち込まなくていい
平井 みどり先生
医師には様々な働き方がある
私は薬学部卒業後に医学部に入りました。学生時代に子どもを2人産んで、3年休学・1年留年し、10年かけて卒業しました。その後すぐに研修医になってもよかったのですが、子どもが小さかったので、とりあえず大学院に行って、大学院の4年間で子どもが大きくなってから臨床に入ってもいいかなと。そう思って大学院に進んだのですが、その4年の間に家を出ることになりまして…。当時の指導教授は女性だったのですが、「ひとりで子どもを育てていくためには、早く一人前にならなきゃいけない。今から臨床医になっても10年かかるから、もう研究職でいきなさい」とアドバイスを受け、研究の道に入りました。自分の強い動機で医学部に入ったわけではなかったこともあり、結局働き始めたのは39歳のときでした。
臨床医としての技術的な面では、若いときにやっておけばよかったかなと思うこともありますが、まあ30代でも間に合いますよ。医師の場合は様々な働き方がありますから。製薬企業の開発職として働いたり、役所などの公的機関に技術職として入ることも可能ですし、子育てしながらだと不規則な働き方はできないからと、保健所に勤めている先生もいらっしゃいます。旦那さんのご実家の医院を継いで、ご両親の面倒を見ながら家を守っているというパターンもあります。
女性の場合は男性に比べて、出世しなきゃ、妻子を養わなきゃ…といった縛りがあまりないので、純粋に自分が面白いと思う仕事をやっていける。これは女性の強みだと思います。「男性の10倍働いてやっと人並み。それくらいがんばってきた」なんておっしゃる先輩もいらっしゃいますけど、私は下の世代にそんなふうには思ってほしくないですね。
結婚も出産もタイミング
結婚も出産も、一応タイムリミットはあるとはいえ、今は40歳過ぎて初産の方もいますし、とにかく20代で最初の子を産まなきゃ…なんて考えなくてもいいと思います。今は昔よりもサポート体制も整ってきていますし、周りの人もブツブツ言いながらもそれなりに手伝ってくれますよ。その代わり、周りの人に何かあった時には、受けた恩を別の形で世の中にお返ししようというぐらいの気持ちでいればいいと思います。
子育ては、親の計画通り進むこととそうでないことがあるので、最低限でいいんじゃないかと思います。苦労しなくても順調に育ってくれる子もいますけど、必ずしもそうじゃないですから。もちろん、勉強もできるに越したことはないし、楽器や絵も上手なほうが良いかもしれないけれど、それはあくまでも付随的なもの。できる範囲で、病気をしないように、健康になる習慣づけをしてあげたらいいと思います。
「手に入れられたもの」を数えよう
今の若い人たち、特に医学生や研修医は、「とにかく最高の環境で、最上の技術を、最短距離で身につけないとダメだ」なんて思っているように感じることがあります。一刻も早く正解を出さなくちゃ不安で、正解が出なかったら人生終わり、みたいに思ってるような節がある。そんなことはないんですよ。医療では正解があることの方が少ないですしね。
学生時代も医師になってからも、途中でつまずくこともあると思うんです。そんな人に、「焦る必要はないよ」「医師の生き方にもいろいろな選択肢やパターンがあるんだよ」って言ってあげられることは、回り道をたくさんしてきた私の取り柄かなと思います。
人生の岐路に立ったとき、選べなくて立ち止まってる人を見ると、「あんたは欲が深い!」と思ってしまいます。「どっちも欲しがるから決められへんねん。諦めたらええねん」って(笑)。自分が手に入れられなかったものは、諦めていいと思うんですよ。どの時期にどれを取るかじゃなく、むしろどの時期にどれを諦めるかを考える。もちろん計画は立てたらいいと思うんですよ。ただ、自分の思った通りにいかなかったときに、落ち込む必要はないんです。
“ I’m not okay, you’re not okay, and that’s okay.” これは、精神科医キューブラー・ロスの言葉です。自分が手に入れられなかったものを数えるんじゃなく、手に入れたものだけを数えていけばいいんじゃないかなと思います。
神戸大学医学部教授・神戸大学医学部附属病院薬剤部長
1974年京都大学薬学部を卒業後、神戸大学医学部に入学し、1985年に卒業、同年医師免許を取得。1990年同博士課程を修了し、神戸大学病院薬剤部の文部技官を経て、京都大学病院薬剤部助手。1995年神戸薬科大学助教授、2002年臨床薬学教授。2007年神戸大学医学部教授、神戸大学医学部附属病院薬剤部長に就任。
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