知っていますか? 矯正医官(前編)

普段私たちからはあまり見えない、刑務所の中の医療に携わる「矯正医官」について紹介します。

人が生活する所には、必ず医療のニーズがあります。それは刑務所の中であっても変わりません。国は、刑務所で身柄を拘束している間、受刑者の健康を守る責務を負っています。その任務にあたるのが、全国に約300名いる「矯正医官」です。
2014年の統計によると、全国の刑務所に計6万人余りの受刑者が収容されていました。刑務所内でも高齢化が進んでいるほか、薬物やアルコール等の影響もあり、医療を必要とする受刑者は決して少なくありません。出所後に円滑に社会復帰するためにも健康管理は重要です。
そんな刑務所の医療を一手に担う矯正医官ですが、その仕事内容はあまり知られていません。刑務所で働くことに対して「危ないのではないか」といった誤ったイメージがあったこともあり、その担い手は不足しているのも事実です。
しかし実際には、刑務所での勤務に危険なことはなく、むしろ幅広い総合診療の経験を積むことができます。さらに最近の法改正により、矯正医官として常勤で働きながら研究に従事したり、他施設で働くことが認められるようになりました。
今回は、矯正医官の実際の仕事とはいったいどのようなものなのか、宮城刑務所で20年間働いている、新妻宏文先生にお話を伺いました。

刑務所における医療

――早速ですが、先生はどうして矯正医官として働くことになったのでしょうか。

新妻(以下、新):私は、所属している東北大学の消化器内科の医局の人事で、入局5年目頃、宮城刑務所で働き始めました。刑務所に赴任になると言われたとき、不安が全くなかったと言えば嘘になるかもしれません。ただ、前任者から「危ないことはないよ」と聞いていましたし、少し変わった働き方も面白いかもしれない、と思って引き受けました。

――受刑者から暴力や暴言を受けるようなことはありますか?

:ないですよ。診察のときは医師と看護師だけでなく、必ず刑務官が立ち会います。危ない目に遭ったことはないですね。

――刑務所内では、具体的にどのようなタイミングで診療が行われるのでしょうか?

:大きく分けて、刑務官が体調不良に気付く場合と、本人から診察の希望がある場合の2つのパターンがあります。

刑務官は日頃から刑務所内を巡回したり、懲役受刑者の作業を監督したりしています。毎日受刑者の様子をつぶさに見ていますので、受刑者の体調が悪いことに気付いたり、時には寝込んだり嘔吐していたりするところを発見することもあるんです。そんな時は刑務官から医務部に連絡が入り、診療にあたることになります。刑務官の方が「ちょっと顔色が悪いな」と思って届け出た結果、重篤な病気の一歩手前だった…ということもありました。

一方、受刑者本人が診療を希望する場合は、工場担当の刑務官が診察や処方継続の希望を受刑者から聞き取り、それを看護職が本人に確認したのちに診察に連れてくることになります。

――具体的には、どんな疾患を診ることが多いですか?

:プライマリ・ケアを担うので、様々な疾患を診ることになります。もちろん軽い症状のことも多いですが、刑務所に入ってくる人には、それまであまり医療を受けてきていない人も多いんです。ですから、入ってすぐにがんや肝硬変などが見つかることもよくあります。

大腸のポリープなど小さな手術なら当刑務所内で行えますが、1週間くらいの入院が必要な手術の場合は、医療刑務所に移送することもあります。また、心臓・肺・脳などの難しい手術については、連携している外部の病院に手術をお願いすることになります。ただ、受刑者が外部で医療を受ける場合、刑務官が監視する必要があるので、術後の経過観察はできるだけこちらで行うようにしています。

あとは、末期がんの受刑者は、各施設から医療重点施設に移送されてくるので、当施設で看取りを行うこともあります。麻薬を使った疼痛コントロールなども、勉強しながら行っています。

 

 

 

 

新妻 宏文先生

宮城刑務所 医務部長
日本矯正医学会 理事長

 

 

(写真中)内視鏡を用いた検査や治療も行っている。
(写真右)所内には臨床検査技師もおり、一通りの検査を行うことができる。

 

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