医師への軌跡
医師の大先輩である先生に、医学生がインタビューします。
日々の挑戦を積み重ね 新しい医療を切り開いていく
軍神 正隆
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 救急科部長
KKRシミュレーション・ラボセンター センター長
東京大学医学部救急医学 非常勤講師
様々なニーズに応える医療

石橋(以下、石):先生はなぜ救急科を選んだのですか?
軍神(以下、軍):臨床研修で救命救急センターを回った際、培った知識や経験が最も活かされる科だと感じました。多種多様な社会的状況に置かれている、様々な病状の患者さんがいて、限られた時間とマンパワーや医療資源のなかで患者さんのニーズに合う医療を提供する点に、やりがいを覚えたのです。
また、当時の日本では「救急医療崩壊」が社会問題化していたのですが、今よりも専門領域志向が強く、患者・病院・地域・社会・時代のニーズを全て満たす総合的な救急医療が実現できずにいました。そのようななかで、自身の持つ知識や技術、現場の医療資源とマンパワー、地域のネットワークを総動員して、救急医療を提供するというER型の総合救急科学・救急科診療の存在を知り、私の目指す医療だと感じました。
石:ER型救急を学ぶためアメリカに留学されたと伺いました。
軍:研修医時代にピッツバーグ大学メディカルセンターを訪れ、臨床疫学ベースの救急医療の実践、シミュレーションを用いた先進的なレジデント教育等に強く感銘を受けました。救急科に進むことを決めた頃から、米国のER型の総合救急科学のレジデントを実際に経験し、日本の救急医療や臨床教育に還元できれば救急医療再生につながるのではと考えるようになり、米国臨床留学を志しました。
休暇のたびに米国の様々なERを訪れ、エクスターン研修を武者修行として繰り返しました。エクスターンは実診療制限があるためドクターエイドでしたが、米国の評価基準は全てがとても厳しく当初は苦戦しました。しかし、日本で救急医として腕を磨くことで、米国の救急医に必要とされる臨床力・人間力・コミュニケーション力の客観評価も改善していきました。
卒後9年での渡米でしたが、同期の米国レジデントに臨床指導を行うことも多く、カンファレンスも日本型救急専門医の視点で議論に臨むことができ、「質の高い救急医療が実践できる」と概して喜ばれました。終始苦労の連続ではありましたが、目標に向かって日々精進する毎日は非常に充実したものでした。
日々の挑戦を忘れずに
石:先生のこれまでの経験を踏まえ、救急医療にはどのようなことが重要だと考えますか?
軍:救急医療では多種多様な患者さんを24時間受け付けているため、救急科は社会のニーズを非常に色濃く反映した科です。UCLA*メディカルセンターで勤務していた際に、児童虐待に対する実践医学として救急科医が公衆衛生学的アプローチで州の制度を改革する事象に遭遇しました。現場を改善するためには、時にはシステム自体を変える必要もあり、社会医学的なマクロな観点も必要になります。
また、時代のニーズに応えていくために、ときにはAIのようなハイテク技術をうまく操れる必要があります。そのためには、症状・徴候をもとに臨床疫学的推論で緊急度をイメージし、同時に医療のコストパフォーマンスと患者さんの満足度までを考えながら取り組むローテクな医療の実践が不可欠です。日々の臨床の現場を大切にしていかなければなりません。
石:私は現在、宇宙医学に関心を持っており、海外の病院にアプローチをしている最中です。先生のように、この分野の先駆者となれるよう頑張りたいです。
軍:ベンチャーの領域は、前例がないために自身で開拓しないといけない点が大変ですが、だからこその面白さもあります。自身の技能を磨き、家族・職場・地域・社会・時代とのつながりをしっかりと活かせれば、どれだけ高い目標でもいつかきっと実現できます。ぜひ、日々挑戦を繰り返し、これからの医療者のロールモデルになってください。
*UCLA…カリフォルニア大学ロサンゼルス校
軍神 正隆
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 救急科部長
KKRシミュレーション・ラボセンター センター長
東京大学医学部救急医学 非常勤講師
1995年、長崎大学卒業。亀田総合病院で臨床研修後に、2001年、東京大学医学部附属病院救急部・集中治療部に入局。2003年、ピッツバーグ大学医学部附属病院内科インターン。2004年、UCLA医学部附属病院救急科レジデント。2007年、東京大学医学部附属病院救急集中治療部助教。2011年、同病院救命救急センター副センター長。2014年、東京大学医学部救急医学講師。2019年より虎の門病院。
石橋 拓真
東京大学医学部 6年
東京大学の医学部生は、学生実習で救急科を回ると必ず軍神先生にご指導いただくのですが、ほとんどの人にとって忘れられないほど大きな経験になります。エクスターン研修時、最初のうちは低かった評価が継続していくうちに上がっていったという先生のお話には、これから挑戦をしていく立場として勇気が湧きました。
※取材:2022年11月
※取材対象者の所属は取材時のものです。



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