医師会病院の運営~板橋区医師会病院~-(前編)

医師会が運営する病院として、様々な形で地域医療を支えています。

板橋区医師会病院の院長・泉 裕之先生

みなさんは、全国各地に「医師会病院」があることをご存知でしょうか?各地域の医師会が運営する病院であり、公立の急性期病院がなかったり、民間の大規模医療機関がないような地域では、この医師会病院が地域医療を支えている場合も多いのです。今回は、東京都唯一の医師会立病院である板橋区医師会病院の院長・泉裕之先生にお話を伺いました。

「共同利用施設」として設備を開放

一般に医師会病院は、「共同利用施設」と言われます。例えば地域の診療所で入院や手術の設備を整えたり、医療機器を揃えたりしようとすると、高額の費用がかかります。そこで、医師会病院が持っている設備を診療所の医師にも自由に利用してもらおうというのが、「共同利用施設」という考え方です。患者さんが具合を悪くした時に入院施設を使用したり、CTやMRIを撮りたいという時にその機器を使用したりできるのです。入院中は医師会病院の医師に主治医を頼むこともできますし、診療所の医師が引き続き主治医として病院で治療を続け、病院の担当医は副主治医としてサポートすることも可能です。

「地域の診療所の医師と、私たち医師会病院の医師が、共同で診療にあたっていくということで、私たちはよく『2人の主治医』という言葉を使っています。

板橋区内には39の病院があり、医療資源は豊富と言えます。その中で医師会が病院を運営する意義を考えると、やはり地域医療を支えることなのではないかと考えます。医師会が運営しているため、地域の診療所の先生たちが必要とすることを反映しやすいかもしれません。そしてそれに応えていく形で、患者さんを継続して診ていくことができるような仕組みを整えていくことが重要だと感じています。」

診療所と高度医療の間をつなぐ

そして、そうした地域の診療所と高度医療の間をつなぐのも、医師会病院の重要な役割のひとつです。

「診療所の先生たちも何かあったらまずはこちらに相談してきてくれますし、それを引き受けて診るのがこの病院の役割ではあるのですが、さらに重症度が高い患者さんに関しては、大学病院などの高度医療機関に送ることも必要になってきます。地域医療を支える立場として、切れ目のない医療を提供するために、ときには診療所と高度医療との間をつなぐコーディネート的な役割も担うことが大切だと思っています。」


医師会病院の運営~板橋区医師会病院~-(後編)

地域のかかりつけ医と連携し、切れ目のない医療を提供していきます

病児・病後児保育などにも取り組む

病児・病後児保育室の外観

こうした考え方から、板橋区医師会病院では、少子高齢化の時代の地域医療を支えるべく、在宅医療や周産期・小児医療に特に力を入れています。

特徴的な取り組みとして、病児・病後児保育室が挙げられます。これは板橋区からの委託で、病気により安静が必要で保育園・幼稚園などに通えない子どもを預かる事業です。入院を必要とする子ども以外は誰でもみるという方針で、たとえ40度の熱があっても、お母さんが看護できる病状ならば預かっているそうです。板橋区在住の1歳から小学校入学前の子どもが利用でき、年間で延べ1300人を超える利用者があります。

「こういった取り組みは、一般の医療機関で行うにはなかなか採算の取れないものかもしれませんが、利益の追求を目指すのではなく、地域医療を支えていくという使命を持った医師会病院だからこそ、引き受けていくべき役割なのではないかと考えています。」

地域の医療を担う若手を育てる役割も

板橋区医師会病院は、臨床研修病院にも指定されています。かつ、近隣の大学病院の実習を受け入れたりと、地域医療の教育機関としての役割も担っているとのこと。医学生のみなさんにも遠い存在ではないのです。

「初期臨床研修の2年間は、一般的な病気、いわゆるCommon Diseaseを診られるようになることが非常に大切です。重症の患者さんや特殊な病気ばかりを診るのではなく、『普通の診療』ができる技術を身につけてほしい。その意味で、当院は初期臨床研修に適した病院だと思います。

そして忘れないでほしいのは、そうした『普通の診療』から病気が見つかっていくんだということです。大学病院や専門病院では紹介されてくる患者さんを診るので、あらかじめ病気であることがわかっているけれど、調子が悪いと思って病院に行ったら実は重症だったということも少なくはありません。つい最近も、風邪で来た子どもにその場で先天性心疾患が見つかったという例があり、研修医が驚いていたのが印象的でした。そういうことにきちんと気がつくような医師を育てていくことも、私たち医師会病院の使命だと感じています。」


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