地域医療ルポ
「複数人で継続的に地域医療に関わる体制を築きたい」
茨城県常陸太田市里美地区 大森医院 大森 英俊先生
県北地域の中でも山間部にあたり、人口およそ3,500人のうち、約4割が65歳以上。地区内には2件しか医療機関がなく、無医地区向けの無料巡回バス「みどり号」が運営されるなど、行政による医療支援が進められている。

往診に行ってみると、脳梗塞で倒れたおばあちゃんがそのまま寝たきりになっていた。抑うつ状態で、筋力もひどく低下している。床擦れができているのを見て、離れたところに住む家族が連絡してきたのだ。こんなことが、今の時代に起こっているなんて――19年前、故郷である里美村(現・常陸太田市)の医院を継いだ大森先生は、想像以上の医療過疎に衝撃を受けた。
この地域には、電車やバスといった公共交通機関がない。つまり具合が悪くなればなるほど医療機関を受診するのが難しくなってしまうのだ。独り暮らしで家族の助けを得られず、満足に医療を受けられない高齢者も少なくない。こんな悲劇はできるだけ減らしたい――そう感じた大森先生は、基幹病院に行くことができない患者さんでも、せめて近くに入院したり在宅医療を受けたりすることで、最低限必要な医療を受けられるようにしていきたいと考えた。診療所に新たに入院施設を設け、訪問看護ステーションや特別養護老人ホームを設立し、患者さんがいつでもサービスを受けられるような施設を少しずつ作りながら、他病院や地域との連携にも力を入れてきた。
努力の成果が実感できたのは震災後だった。家屋の損壊や停電など生活環境が変わったストレスからか、周辺地域の救急搬送件数は3~4倍に増えたが、里美地区だけは震災前後で件数が全く変わらなかった。もともと茨城県には、医療・保健・福祉の関係者と地域住民・ボランティア等がチームをつくり、高齢者の生活支援を行う『地域ケアシステム』という仕組みがあった。里美地区はコーディネーターが中心となってその仕組みを早くから取り入れていたこともあって、高齢者が不安を感じないようにサポートし合う体制ができていたのだ。
「うまくいっているとはいえ、私一人ではここまでのサポートは難しかったと感じています。実は6年前から筑波大学の学生を地域医療実習で受け入れることになったのがきっかけで、週一回総合診療科の先生が来てくれているんです。継続的に関わってくださっているので、大森医院の顔として患者さんに親しみを持ってもらっています。
今後ますます高齢化が進み、若い人は減っていくでしょう。後継者を育てたいという気持ちはあるけれど、自己犠牲の上に成り立つような地域医療では絶対に続かない。無理にここに住んでもらうのではなく、市街地から通ってもらうかたちでもいいから、少しずつ複数人が継続的に関われる体制を築いていけたらと考えています。」


(写真右)大森医院の関連施設である共同生活介護施設、グループホームすぎの木。



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