
「情報」を再定義する
医師の仕事において「情報」はなぜ必要なのか、
どんな「情報」が重要な役割を果たすのか、考えてみましょう。

意思決定には「情報」が必要
みなさんの多くは将来、医師として診療に携わることになるでしょう。どんな検査をするか、どう診断をつけるか、どんな治療法を選択するか、患者さんの直面する困難にどう対処するか…様々な選択肢を洗い出し、患者さんと共に意思決定をするという営みは、みなさんの仕事の大部分を占めることになるのではないでしょうか。今回の特集では、診療における医師の仕事を、「意思決定」の連続として捉え直してみたいと思います。
さて、「意思決定」とはどんな行為かと考えると、自分たちの目の前にはどんな選択肢があり、それぞれの選択肢にはどのような長所・短所があるかを調べ、その中から1つを選ぶという行為だと言えるでしょう。選ぶ時の判断基準は、患者さんの置かれた状況、医療を行う環境、患者さんの意思、自分の技術など、様々な要素に左右されます。これらの全てが、より適切な意思決定をするための「情報」なのです。
ただし、医学には不確実性がつきものです。カナダの医学者ウィリアム・オスラーが「Medicine is a science of uncertainty and an art of probability. (医学は不確実性の科学であり、確率のアートである。)」という言葉を残していますが、医療の世界では、いくら情報を集めても、確率が100%になることはありません。多くの医師が当たり前のように行っている確立された治療法が、予想だにしなかった結果を招くこともあります。医師は、より良い選択をするための情報を収集しながら、同時に医療の不確実性も認識し、できる限りの診療を行うという使命を負っているのです。
医師の用いる2種類の「情報」
では、医師が意思決定をするために必要な情報には、どのようなものがあるでしょうか。ここでは「情報」を、「選択肢に関する情報」と「患者に関する情報」の2種類に分けて考えてみましょう。
一つ目の「選択肢に関する情報」は、解剖学や生理学などの基礎的な医学知識、 疾患や症状に関して教科書に書かれている内容はもちろん、世界中で行われている基礎研究・臨床研究の成果なども含みます。さらに、先輩から教えてもらったことや、自身の診療経験から学んだこともまた、「選択肢に関する情報」だと言えます。
例えばがんの患者さんに対して、手術・抗がん剤・放射線などの治療法があったとき、手術をするとどうなるのか、抗がん剤はどんな場合に有効なのかなどを理解していないと、どれを選べばいいかわからないでしょう。
ただし、選択肢を挙げ、それぞれにどんな長所・短所があるのかを理解しただけでは不十分です。意思決定のためには、「患者に関する情報」もまた必要になります。先ほどのがんの患者さんの例で言えば、患者さんのこれまでの病歴や治療歴、合併症の有無、生活状況、本人・家族の希望などがわからなければ、患者さんにとって最良の選択をすることはできません。カルテの内容や検査結果、本人や家族の発言などから情報を収集してはじめて、何を基準に意思決定するのが適当なのか、判断できるようになるのです。
次のページからは、「選択肢に関する情報」と「患者に関する情報」それぞれについて、詳しく見て行きましょう。



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