
密着取材を振り返って
病院によって研修は大きく異なる
5つの研修病院で研修医の先生に密着取材してみましたが、どうでしたか?
診療科の違いもあると思いますが、やはり病院による差も大きいですね。研修医に求められる役割も、研修医同士の関係も病院によって異なると感じました。
「屋根瓦方式」と呼ばれる、少し先輩の医師が後輩を指導するやり方が多いですが、その関係も病院によって少しずつ違うようです。今回取材した2つの大学病院では、1年目研修医はレジデントや指導医について業務を行っていました。市中病院では、2年目が1年目を指導するという形の所も多かったですね。
2年目研修医の位置づけも様々なんですね。市中では、特に2年目の研修医は戦力としていろんなことを任され、様々な臨床経験を得られる感じがしました。
進みたい科がある程度決まっていると、2年目に総合診療能力を磨くより、3年目以降に専門とする分野で重点的に学びたいと考えるかもしれません。この辺りも、自分のキャリアイメージによって何が良いかは変わってくるでしょうね。
私が医学生だったら、どの病院で研修をするかとても迷うだろうと思いました。市中病院では色々なことを経験させてもらえるようでしたが、毎日の仕事に追われて勉強する時間がとれない側面もあるように感じました。わからないことが多いのに勉強する時間が限られているよりは、一つひとつの症例を専門分野の医師の下でじっくり学べる環境も良いのかなと考えてしまいますね。
手や身体を動かして経験しながら力をつけていくのが合っている人も、立ち止まって調べたり考えたりする時間がある方が合っている人もいると思います。やはり自分に合っている研修スタイルを見つけることが大切ですね。
研修医は体力勝負?
密着してみて、研修医は体力的に大変だろうな、という感想を持ちました。
そうですね。しかし多くの医師が「臨床研修の2年間はきつかったけれど、そこで学んだ経験は大きかった」と言います。今回密着した研修医の先生方も、忙しさを苦にしている様子はなく、むしろ自ら進んで様々な経験をしようという姿勢でした。勤務時間の長さもありますが、自分は様々な経験を通じて成長できているという肯定感も大事なのでしょう。
とはいえ、朝6時に始まり夜10時までという勤務が当たり前の病院では、私は厳しいかもしれません。当直のときは、翌日の夜まで寝られないこともあると聞くと、相当な覚悟が必要だと感じます。
忙しい研修病院でバリバリ働くことが誰にとっても大事なわけではないので、自分の体力や希望する働き方に合った所を選ぶ必要があるでしょう。働き方や雰囲気が自分に合わないと、心の調子を崩してしまう先生もいるのではないかと心配になります。
そういうところは、実際に足を運んで見学し、研修医が働いている姿を見ないとわからないかもしれないですね。
研修医を取り巻く雰囲気
研修病院によって雰囲気もずいぶん違いましたね。印象に残ったのは市立函館病院の研修医室です。まるで部活の合宿所のような雰囲気で、研修医同士の仲の良さを強く感じました。
そうですね。所属する研修医の人数による違いも大きいのかもしれません。研修医が1学年10人前後くらいだと、研修医同士の関係も濃いように思います。函館病院では、研修医が一堂に会する場も週1回設けられていましたし、その場で直接副院長と話すことができて風通しも良さそうですね。
大変な研修生活だからこそ、研修医同士の支え合いは大事ですよね。大学病院では、その診療科を一緒に回る仲間の存在が大きいのかなと思いました。
大規模病院だと、1つの部署に何人も研修医が配属されますからね。一方、市中病院だと、業務中はヨコの関係よりタテの関係で仕事をすることが多いかもしれません。
行ってみなければ始まらない
今回、密着取材させていただいて感じたのは、やはりインターネットや募集要項で情報を集めるのと、実際に研修医の先生について回るのでは、全然密度が違うということです。
欲を言えば、救急も当直も日によって忙しさも起こることも全然違うので、せめて2日くらいは見たいですよね。
医学生の皆さんも忙しいので、見学に充てられる時間は限られるでしょうが、合同説明会に行くだけではなく、実際に研修病院に足を運び、そこでどんな医療が行われ、研修医がどんなことをしているのか、自分が学びたいことは得られるのか、体力的にやっていけるのか――などをしっかり考えることは大事だなと思いました。
研修病院を選ぶ時期になると、大学病院での実習は経験していることになります。しかし、「こんなはずではなかった」と後悔することがないように、自分がそこで働く・研修を受けるという視点で、一度見学してみた方がいいのではないかと思います。
医学部は規模も小さく、クチコミで情報が広がることも多いと聞きます。けれど、ある人にとっては素晴らしい環境と思える研修病院が、別の人にとっては合わない、ということは十分ありうると感じました。ぜひ、自分の目で見て選んでほしいと思います。
最後になりますが、密着取材させていただいた5名の研修医の先生方、そして指導医の先生方、同僚の先生方、調整にあたって下さった事務の皆様、この場を借りて御礼申し上げます。



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- Information:Spring, 2016
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