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あなたは診察室に入り、丸椅子に腰掛ける。神妙な面持ちの医師が口を開く。「検査の結果、残念ですが進行がんとわかりました。」一般的には、もって1年ということらしい。頭が真っ白になり、呆然とする―。

長引く体の不調をいぶかり、かかりつけのクリニックを受診したのが2週間前。紹介された大学病院では、随分たくさんの検査を受けさせられた。不安を抱きつつも、まさかそんな重い病気ではないだろうと自分に言い聞かせながらこの数日を過ごしていた。

診察室を出て、目の前にあったベンチに座り込む。様々な思いが頭の中をぐるぐると駆け巡る。何かの間違いではないのか。本当に治る見込みはないのか。どんな治療をして、どんな副作用があるんだろうか。 両親には何と言おうか。大学はどうしたらいいのか。自分は本当に死ぬのだろうか―。

 

緩和ケアという言葉を聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。終末期医療やホスピス、医療用麻薬などがイメージされるかもしれません。日本緩和医療学会は、患者さんとその家族向けのパンフレットで、「緩和ケアとは、重い病を抱える患者やその家族一人一人の身体や心などの様々なつらさをやわらげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア」だと説明しています。
自分が命にかかわる病気にかかったと知らされたならば、誰でも数多くの苦悩を一気に抱え込むことになります。居ても立ってもいられない思いに苦しめられることもあれば、学校や仕事をどうするかなどの現実的な問題に悩まされることもあり、もちろん、体の痛みも徐々に出てくるでしょう。緩和ケアは、これらの苦しみ、悩み、つらさの全てを対象とするものです。
高齢社会の進展に伴い、死者数が増えていく時代に医師になるみなさんにとって、緩和ケアは必ず求められるものの一つになるはずです。この特集を通じて、緩和ケアとはどのようなものなのかを理解し、緩和という視点の大切さについて、少しでも実感を持ってもらえればと思います。

 

No.11