医学生×保育者 同世代のリアリティー

子どもを保育する 編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。今回は「子どもを保育する」をテーマに、保育所・幼稚園で働く3名(社会人D・E・F)と、医学生3名(医学生A・B・C)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは「子どもを保育する」

医師が仕事と育児を両立させるためには、保育所や幼稚園にお世話になることが多いでしょう。今回は保育のプロ3人に、その仕事内容や育児について聞きました。

保育所と幼稚園、保育形式の違い

社D:私は保育士として働き始めていま3年目で、今年は0歳児クラスの担任をしています。

社E:私は幼稚園に今年入職して、4歳児を受け持っています。

社F:僕も今年から幼稚園で働いています。僕の園では入職1年目は担任を持たず、年少・年中・年長のクラスを1学期ずつ補助することになっています。来年から担任を持つ予定です。

医A:基本的なことなのですが、保育所と幼稚園の違いはどういうところにあるんですか?

社F:保育所は厚生労働省管轄の乳幼児の保育を行う施設ですが、幼稚園は文部科学省が管轄する学校の一種です。そのため保育士と幼稚園教諭は別の資格で、僕たち3人は大学でそれぞれに対応した授業を履修して両方の資格を取得しています。

社E:保育・教育の内容面でも、お昼寝の有無やお勉強に割く時間などに違いがあります。私の勤めている幼稚園は音楽教育に力を入れていますが、食育などを行っている園もあります。

医B:通う子どもの年齢などにも違いがあるんですよね?

社D:保育所は0歳児から小学校入学直前までの子どもを受け入れていて、うちの園では朝7時から、延長保育を使えば夜7時まで預かれます。一方、幼稚園の対象は基本的に3歳以上の子どもで、預かる時間は1日4時間くらいの所が多いですね。

社F:保育所は基本的に両親が共働きでないと入れません。今は保育所に入れない「待機児童」が問題になっていますが、幼稚園だと預けられる時間が短いので、フルタイムで働く親御さんの場合は、どうしても保育所に預ける必要があるんです。

保育するという仕事の難しさ

医C:保育士・幼稚園教諭として働くうえで、一番大変なことは何ですか?

社E:やっぱり親御さんとの関係ですかね。いわゆるモンスターペアレントも、なかにはいます。以前、蚊についての苦情を受けたことがあります。夏だと子どもは汗をかくし身長も低いのでどうしても刺されてしまうものなんですが、「うちの子がなぜ蚊に刺されるんだ!」と怒られてしまいました。でも刺されないように長袖を着せると、今度は逆に「こんなに暑いのになぜ長袖なんて着せるんだ!」と言われたり(苦笑)。親御さんにもストレスがあるので、そういうのを聞いてあげるのも私たちの仕事なのかなと、最近になって思えるようになりました。

社D:私が大変だと感じるのは園外保育です。先日も1泊保育があって、年中・年長を連れて静岡の牧場とサファリパークに行きました。怪我や誘拐など、万が一のことがあったら大変なので、とにかくプレッシャーが大きいです。トイレ休憩などを挟む度に点呼して、全員の安全を確認していました。神経を張りっぱなしの2日間でしたね。

医A:私が通っていた幼稚園には、男性の先生はあまりいませんでした。男性が幼稚園で働くのって大変じゃありませんか?

社F:男性の割合は少しずつ増えてはいますが、それでも全体の2割くらいでしょうか。まだまだ女性社会の職場なので、男性が働く際には難しいことも多いですよ。ただ、子どもを腕にぶら下げたり肩車したりするダイナミックな遊びができることは、男性の強みかなと思います。

医B:それって、絶対に子どもが喜ぶやつですね!

社F:でも幼稚園教諭の収入はかなり少ないので、将来の結婚などを考えると、正直難しいものがあるのかなとも思います。僕の場合は四年制大学卒ということで少し手当があって、後は送迎バスの運転手をやったり年次が上がったりすれば少しずつ昇給していきますし、結婚しても生活できるように頑張ると園長先生は言ってくれています。自分としては、せっかく就いた仕事ですし、子どもの相手をするのも好きなので、できるだけ長く続けたいと思っています。

同世代


医学生×保育者 同世代のリアリティー

子どもを保育する 編-(後編)

「できない」が、「できた!」に

医C:そういう大変なことが多いなかで、「この仕事をやっていて良かった」と思う瞬間ってどんな時なんですか?

社E:子どもができなかったことをできるようになると、本当に感動します。最初は泣いて登園していた子がそのうち泣かずに登園できるようになったり、一人で着替えられなかった子が自分でボタンを留められるようになって、「先生、できたよっ!」って見せに来てくれたりすると、本当に嬉しいですね。

社F:コミュニケーションが苦手な子どもだと、嫌なことがあると友だちを引っ掻いたり噛んでしまうことがあります。ある日、その子にとってすごく嫌なことがあって、友だちに手を出してしまいそうになったのですが、何とか我慢して「いやだ!」と言えたんです。その時は僕も感動して、「よく我慢できたね!」ってほめてあげました。

社D:保育所に預けられる子どもの場合、お家で起きている時間よりも園にいる時間の方が長いので、初めて寝返りをしたり歩いたりするのが保育所であることも多いんです。でもそれは、絶対に親御さんに言っちゃいけないことになっています。

一同:あー、そうなんだ!

社D:やっぱり親御さんにとって、我が子が何かをできるようになる瞬間は、自分で見届けたいですからね。

自然やアニメから学び、引き出しを増やす

医A:子どもに対する保育・教育の技術はどこで身につけるものなんですか?先輩に教わることが多いのでしょうか?

社F:先輩に教わるのはもちろんですが、人によって得意な分野が違うので、自分が伸ばしたい分野の研修会に行くことも多いです。研修会は主に自治体が主催していて、教諭同士のディスカッションを行うほか、実際の形に近い演習をすることもあります。この前僕が出た研修会のテーマは「自然」で、町のなかを歩きながら、普段の生活ではなかなか気づかない「小さな自然」を探すというものでした。他にも「リズム」の演習で、いろんな種類の楽器を使ってリズムを作ってみる、といったものもあります。研修会で学んだ内容をそのまま園で教えられるとは限りませんが、そうやって自分の引き出しを一つひとつ増やしていくことが大切なんです。

医B:引き出しと言えば、私は幼稚園でアニメの歌をよく歌っていたんですが、大人になって考えてみると、先生たちは流行のアニメをチェックして私たちが歌えるように曲を覚えてくれていたんだなあと思います。みなさんも流行っているアニメをチェックしているんですか?

社E:それもなかなか苦労するところなんです。と言うのも、子どもたちからは、「アニメの歌を歌って!」なんて言われるんですけど、そもそも、そのアニメが放送されている時間帯に帰宅できないので…。学期が変わるたびに本やDVDで流行の作品をチェックして、休みの間に歌や踊りを必死に覚えています。お陰でかなりレパートリーが増えましたよ(笑)。

社D:今だと「妖怪ウォッチ」と「アナと雪の女王」が人気ですね。今度の運動会で「ようかい体操第一」を踊りますし、「アナ雪」の歌は子どもも歌詞を覚えているので、こっちが「ありのー」って歌うと、子どもも「ままのー」って歌い始めます。

医師の仕事を育児と両立するためには

社F:お医者さんは忙しいから、将来子どもが生まれたら育児をどうするかが悩みどころですね。

医C:そうなんです。ベビーシッターや保育所を使ったり、親の力を借りたりして仕事と育児を両立する医師が多いと思います。病院によっては保育所が併設されている所もありますが、預けられる時間帯は限られるし、定員が少なくて入れないことも多い。結局は周囲の理解とサポートがないと難しいと思います。

医B:医学分野は進歩のスピードがとても速いので、いったん仕事から離れると、追いつくために相当な時間がかかってしまいます。とは言え、育児はもちろん大事なので、育児休暇はしっかり取りたいです。育休後に職場へスムーズに復帰できるようなプログラムが充実するといいなと思っています。

社E:親が子どもと一緒にいられる時間って本当に短いですし、私たちとしては、できるだけ子どもと一緒にいてほしいとは思います。預かり保育の子どもを見ていても、他の子が親と帰っていくのを見送りながら待つのは、淋しそうですね。

社D:けれど、園にいる時間が長い子でも、家でちゃんと愛情を注げていれば大きな問題はないと思います。園に預けることで集団生活に慣れて親離れができるのは、子どもにとってもプラスです。要はバランスですね。

医A:先輩のなかには、キャリアを諦めないために育児は全部シッターさんと保育所に任せて、当直も全部こなしたという人もいます。でも私個人としては、産後数年間は子どもと一緒に過ごしたいと思います。キャリアにも育児にも、今後はいろんな選択肢が出てくるといいですね。

医C:女子医学生が集まると、よく出産や育児の話になります。今日は実際に子どもを保育・教育しているみなさんとお話しできて、子どもを育てることがどういうことであるか、リアルに想像することができました。どうもありがとうございました!



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