地域医療ルポ
いい仲間と仕組みができれば、地域医療はやめられない
島根県隠岐郡西ノ島町 隠岐島前(おきどうぜん)病院 白石 吉彦先生
180あまりの島々が集まる隠岐諸島のなかで、有人島は島前(西ノ島町・海士町・知夫村)と島後(隠岐の島町)の4つ。隠岐島前病院は、島前で唯一の有床医療機関として、約6,200人の健康を支えている。隠岐は後醍醐天皇の流刑の地としても有名。

「へき地医療の中でも、離島医療は独特のハードルの高さがあると思います。ヘリが飛べない時間や天候だと、緊急搬送もできない。だから、僕のように島で10年以上続けている人は多くない。僕もこんなに長くいるつもりはなかったんです。」
では、なぜ白石先生は島で医療を続けているのか。一つは医師である妻をはじめ、仲間や地域の支えがあったからだ。
「妻は病院の医師であり、同じ島内の診療所長も兼務しています。4人の子どもを産み育てながら、二人三脚で当直も外来も何でもやってきた。妻が医師としてのパートナーであり続けてくれることは心強いです。」
妻と隠岐島前に赴任し、最初は数年で戻るつもりが、4年目で病院長への就任を打診された。
「人は温かいし、自然も魅力的で、やりがいは確かにありましたが、自分がやりたかったのは病院経営ではなく総合診療医の仕事だったので、悩みました。行政の支援や本土の後方支援体制がなければ責任は持てないと感じたこともあります。そういう環境を整えてもらうことを条件に、院長を引き受けました。今振り返ると、34歳の若手に病院を託してくれた周囲の思いに応えた部分もあります。どうせやるなら、行政や基幹病院のバックアップを受けられる仕組み作りをしようと考えました。」
院長になったことで、医療を支える様々な仕組みが見えるようになった。県内の基幹病院の院長と会議で顔を合わせるようになり、直接いろいろな話もできるようになった。
「重症の患者さんは本土に送るのですが、僕は地元の人間ではないから、それまでは送り先の医師の顔も知らなかった。けれど本土に通うようになって、相談も受け入れ依頼もしやすくなりました。仕組みや信頼関係を築くことで、医療の質が上がるという確信を得られました。」
現在は、医学・看護学の実習生の受け入れ、総合診療医向けの書籍の出版、全国自治体病院協議会の役職就任など、積極的に外部との交流をはかっている。
「島に来たいという医療者を増やし、彼らが少しでも長く島で働きたいと思える、そんな医療体制を築くのが僕の仕事。そのために、離島医療の面白さも、島での充実した生活についても発信を続けています。この仕組みと楽しさを学びに若い人が島前に来てくれれば活気が出るし、ここで育った人たちが各地で地域医療を担ってくれれば素晴らしい。医師としての技量に加え、いい仲間と仕組みが揃えば、地域医療ほど面白いものはないですよ。僕はそれを証明したいと思っています。」



(写真中央)島の暮らしの楽しさを熱く語る白石先生。
(写真右)2001年、増改築して現在の隠岐島前病院となった。



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