医師国家試験ができるまで(前編)
医師の質を国民に担保する
ここまで紹介してきたように、医師養成の過程には様々なステップが設けられていますが、その中でも、医師国家試験は社会的に大きな意味を持ちます。医師免許を取得すれば、人体に侵襲を加えうる医行為を合法的に行うことができるようになるわけですから、国家試験は、医師に最低限必要な知識・技能を、国民に対して担保するものでなければなりません。そのため、医師国家試験の作成には多くの人が関わり、常に最適な形で試験を行えるよう、試行錯誤を重ねています。
全国医学部長病院長会議:
検討材料の提供
医師国家試験に関するアンケート調査
全国医学部長病院長会議は、毎年「医師国家試験に関するアンケート調査」を独自に行い、今後の医師国家試験の改善のためにその内容を分析しています。
2013年度に第108回医師国家試験について行われたアンケートは、10大学の学生と、80大学の教員が対象でした。また、同時にワーキンググループのメンバーにより、医師国家試験の問題全500問の質の評価も行われています。
全国医学部長病院長会議は、このアンケートの結果に基づき、厚生労働省などに要望書を提出しています(表1)。
アンケート
2013年度、学生向けのアンケートは全17項目について実施されました。国家試験の質やボリュームを問う質問のほか、大学での学習内容との整合性について、また国家試験は医学生の不安をあおっていると思うかについて問うものもありました。
表1 「医師国家試験に関する要望書」(2014年8月1日公表)内容
1 | 試験に関する情報公開、受験環境の整備を引き続きお願いする。 |
2 | 難易度の高い専門医レベルの問題は排除し、臨床実習の成果を問う良質な問題の出題に尽力いただきたい。 |
3 | 難易度の高い問題および必修問題で正解率の低い問題は採点から除外するなど、受験生の不利にならない適切な処置を引き続き講じていただきたい。 |
4 | 全国医学部長病院長会議が公表した「医師養成の検証と改革実現のためのグランドデザイン:地域医療崩壊と医療のグローバル化の中で」を参考に、医師国家試験の改革に関して、関係機関で検討を続けていただきたい。 |
医師国家試験ができるまで(後編)
よりよい国家試験のために
わが国には、医師国家試験を定期的に見直す仕組みとして、厚生労働省で概ね4年に一度開催されている「医師国家試験改善検討部会」があります。直近では2014年に検討部会が開かれ、13名の委員が現行の国家試験を評価するとともに、改善事項について検討を行っています。
改善検討部会の報告書が出されると、それを踏まえて「医師国家試験出題基準」改定のための会議が行われます。前ページで紹介したように、医師国家試験の出題範囲は、医師国家試験出題基準に準拠します。医療に対するニーズの最新の動向を踏まえ、必要な知識を万遍なく問うことができるよう、有識者が議論を重ねているのです。
この出題基準に基づいて、厚生労働大臣に任命された試験委員が試験問題を作成することになります。このように、医師免許の質を保つため、医師国家試験は多くの人の手によって作られているのです。
厚生労働省:
国家試験を見直す
医道審議会医師分科会医師国家試験改善検討部会
※概ね4年に一度
厚生労働省は、医師国家試験の妥当な範囲と適切なレベルを保ち、医師の資質の向上を図るため、国家試験の改善に向けた取り組みを行っています。特に、1981年の医療関係者審議会医師部会からの意見を受け、1982年に医師国家試験制度改善委員会が設置されてから、同省では定期的に医師国家試験制度の見直しを行うようになりました。2014年の6月と11月にも、委員13名による医師国家試験改善検討部会が開催されています。
出題基準を見直す
医師国家試験出題基準改定部会
※概ね4年に一度
厚生労働省では、医師国家試験全体についての議論ののち、医師国家試験出題基準をいかに改定していくかに関する会議を別途実施しています。同出題基準は、医師国家試験が準拠する出題基準で、医師国家試験の「妥当な範囲」と「適切なレベル」とを項目ごとに整理したものです(表2)。2013年版の改定の際は100人を超える委員により、出題基準について検討されました。
表2 平成25年度版医師国家試験出題基準(概要)
必修の基本的事項 | 医学総論 | ||||
1 | 医師のプロフェッショナリズム | 約4% | Ⅰ | 保健医療論 | 約10% |
2 | 社会と医療 | 約6% | Ⅱ | 予防と健康管理・増進 | 約13% |
3 | 診療情報と諸証明書 | 約2% | Ⅲ | 人体の正常構造と機能 | 約10% |
4 | 医療の質と安全の確保 | 約4% | Ⅳ | 生殖、発生、成長・発達、加齢 | 約10% |
5 | 人体の構造と機能 | 約3% | Ⅴ | 病因、病態生理 | 約13% |
6 | 医療面接 | 約6% | Ⅵ | 症候 | 約13% |
7 | 主要症候 | 約15% | Ⅶ | 診察 | 約8% |
8 | 一般的な身体診察 | 約13% | Ⅷ | 検査 | 約10% |
9 | 検査の基本 | 約5% | Ⅸ | 治療 | 約15% |
10 | 臨床判断の基本 | 約4% | 医学各論 | ||
11 | 初期救急 | 約9% | Ⅰ | 先天異常、周産期の異常、成長・発達の異常 | 約5% |
12 | 主要疾患・症候群 | 約10% | Ⅱ | 精神・心身医学的疾患 | 約5% |
13 | 治療の基本 | 約4% | Ⅲ | 皮膚・頭頸部疾患 | 約11% |
14 | 基本的手技 | 約4% | Ⅳ | 呼吸器・胸壁・縦隔疾患 | 約7% |
15 | 死と終末期ケア | 約2% | Ⅴ | 心臓・脈管疾患 | 約10% |
16 | チーム医療 | 約2% | Ⅵ | 消化器・腹壁・腹膜疾患 | 約13% |
17 | 生活習慣とリスク | 約5% | Ⅶ | 血液・造血器疾患 | 約5% |
18 | 一般教養的事項 | 約2% | Ⅷ | 腎・泌尿器・生殖器疾患 | 約12% |
Ⅸ | 神経・運動器疾患 | 約9% | |||
Ⅹ | 内分泌・代謝・栄養・乳腺疾患 | 約8% | |||
ⅩⅠ | アレルギー性疾患、膠原病、免疫病 | 約5% | |||
ⅩⅡ | 感染性疾患 | 約8% | |||
ⅩⅢ | 生活環境因子・職業性因子による疾患 | 約5% |
試験問題を作る
医師試験委員
※出題基準に沿って毎年作られる
医師国家試験出題基準に準拠して、実際に試験問題を作成するのは医師試験委員です。医師試験委員については医師法施行令第13条に、「必要な学識経験のある者のうちから、厚生労働大臣が任命する」こと、「委員の数は、百四十五人以内とする」ことなどが定められています。公募問題も取り入れられており、出題依頼に応じた大学医学部・医科大学、臨床研修指定病院、また日本医師会によって、問題公募システムに問題が登録される仕組みになっています。
- No.44 2023.01
- No.43 2022.10
- No.42 2022.07
- No.41 2022.04
- No.40 2022.01
- No.39 2021.10
- No.38 2021.07
- No.37 2021.04
- No.36 2021.01
- No.35 2020.10
- No.34 2020.07
- No.33 2020.04
- No.32 2020.01
- No.31 2019.10
- No.30 2019.07
- No.29 2019.04
- No.28 2019.01
- No.27 2018.10
- No.26 2018.07
- No.25 2018.04
- No.24 2018.01
- No.23 2017.10
- No.22 2017.07
- No.21 2017.04
- No.20 2017.01
- No.19 2016.10
- No.18 2016.07
- No.17 2016.04
- No.16 2016.01
- No.15 2015.10
- No.14 2015.07
- No.13 2015.04
- No.12 2015.01
- No.11 2014.10
- No.10 2014.07
- No.9 2014.04
- No.8 2014.01
- No.7 2013.10
- No.6 2013.07
- No.5 2013.04
- No.4 2013.01
- No.3 2012.10
- No.2 2012.07
- No.1 2012.04
- 医師への軌跡:越智 小枝先生
- Information:January, 2015
- 特集:医師国家試験を再考せよ。
- 特集:医師養成における国家試験の位置付け
- 特集:医師国家試験ができるまで
- 特集:医師国家試験のあゆみ
- 特集:これからの医師国家試験
- 特集:医学生が考える 医学教育、このままでいいの?
- 同世代のリアリティー:法律の世界 編
- チーム医療のパートナー:訪問看護師
- チーム医療のパートナー:介護支援専門員
- 地域医療ルポ:岐阜県高山市丹生川町|丹生川診療所 土川 権三郎先生
- 10年目のカルテ:精神神経科 兼子 義彦医師
- 10年目のカルテ:精神神経科 柳田 誠医師
- 10年目のカルテ:精神神経科 大江 美佐里医師
- 第29回 日本医学会総会 2015 関西
- 医師の働き方を考える:周囲の理解と支援があれば、医師・母・妻を両立できる
- 医学教育の展望:人生経験を医療・医学に活かせる仕組みを作る
- グローバルに活躍する若手医師たち:日本医師会の若手医師支援
- 大学紹介:信州大学
- 大学紹介:聖マリアンナ医科大学
- 大学紹介:兵庫医科大学
- 大学紹介:香川大学
- 日本医科学生総合体育大会:東医体
- 日本医科学生総合体育大会:西医体
- 医学生の交流ひろば:1
- 医学生の交流ひろば:2
- 医学生の交流ひろば:3
- FACE to FACE:古川 祐太朗×古賀 俊介