これからの医師国家試験(前編)

これからの医師国家試験のあり方について、医師養成にかかわる4つの機関にお話を伺いました。

日本医学教育学会

医学教育における医師国家試験の位置付けと大学の責任

日本医学教育学会 国家試験・共用試験委員会 田邊 政裕

日本医学教育学会2004年からの臨床研修必修化により、我が国の医師育成制度が医学教育(6年)と臨床研修(2年)から構成されるようになりました。この8年間の医学教育・臨床研修のアウトカムは、全医師が共通に身につけるべき基本的な診療能力であり、わが国がどのような医師を育成するのかを示します。この診療能力の修得により自律的な専門研修をスタートし、医師としてのキャリアを積むことができます。
医学教育は医学部・医科大学への入学から始まり、各大学が設定する卒業要件(医学士になるための要件で学位授与の方針、ディプロマ・ポリシーと呼ばれる)を達成するために、6年間の教育カリキュラムに沿って行われます。2001年に全ての医学生が卒業までに身につけておくべき能力(医学教育モデル・コア・カリキュラムと呼ばれている)が明示されました(2010年度改訂)。診療参加型臨床実習において医学生は診療経験を積むことで、指導医の指導・監督のもとで基本的な診療を実践できるようになります。これが医学教育モデル・コア・カリキュラムで設定されている卒業時の診療能力であり、臨床研修を開始できるレベルです。臨床研修では、医師の業務(医師法第17条)としての研修(OJT、On the Job Training)により、指導医の指導・監督を徐々に減らし、修了時には指導・監督なしでできる診療能力を達成します。
このような臨床研修を開始できる診療能力を適切に評価することで、医学生から研修医へのシームレスな移行が可能となり、医療安全や患者中心の医療を担保できます。
知識の評価(現状の医師国家試験)は必須ですが、卒業時の臨床能力の評価としては十分ではありません。これを補完するためには、臨床実習等での診療現場での評価に加えてディプロマ・ポリシーや厳格な卒業判定(学位授与)が重要です。各大学には卒業生の質を保証し、医学教育に対する説明責任があります。

全国医学部長病院長会議

医師国家試験の現状と今後のあり方

全国医学部長病院長会議 国家試験改善検討ワーキンググループ座長 持田 智

全国医学部長病院長会議現行の医師国家試験はMCQ*形式の500問からなり、一般問題200問、臨床実地問題200問、必修問題100問に区分されます。合格基準は必修問題が80%の絶対評価ですが、その他は相対評価です。このため合格率は毎年90%前後で安定しています。しかし2013年実施の第107回試験では、臨床実地問題の合格基準が72.7%と高値でした。70%正答でも不合格となるのは、資格試験としては如何なものでしょうか。医師不足の解決にも逆行するシステムと言わざるを得ません。一方、第108回試験では、臨床実地問題の合格基準は66.2%と大幅に低下しました。出題委員長の考えによって難易度が乱高下することが、学生の不安を招いています。
全国医学部長病院長会議では、国家試験改善ワーキンググループが、構成員の10大学受験生と、全国80大学の教員を対象としたアンケート調査を毎年実施しています。第108回の試験は学生、教員ともに満足度が最近の7年間で最低で、「良問が少ない」、「専門医レベルの問題が多い」、「臨床実習の成果を問う問題が減少している」などの指摘が寄せられました。また、1問ごとの質を評価した調査で「臨床実習の成果を問う問題」と評価されたのは18%に過ぎず、MCQ方式の出題には限界があることが明らかになっています。
全国医学部長病院長会議は「医師養成の検証と改革実現のためのグランドデザイン:地域医療崩壊と医療のグロ-バル化の中で」を参考に医師国家試験の改革を行うことを関係機関に要望してきました。以下は私見ですが、MCQ方式の試験は200問程度に限定し、医師として最低限必要な必修事項のみを出題、絶対的基準で評価すべきと考えます。一方臨床実習の成果は、実技試験を各大学に委託し、卒業時OSCEとして実施するのが現実的でしょう。しかし、そのためにはMCQ方式の良問を大量にプールする作業が必須です。各大学には卒業時OSCEの質を向上させる自浄努力が求められ、その透明性を保証する全国統一システムも構築しなければなりません。
*MCQ…Multiple Choice Question(多肢選択式問題)

 

これからの医師国家試験(後編)

日本医師会

臨床実習の成果を問う医師国家試験へ

日本医師会 副会長 中川 俊男

日本医師会日本医師会ではこれまで、医療の中期的な展望を示す「医療のグランドデザイン」の設計、医師の臨床研修についての検討委員会などを通じて、医師養成についての検討を重ねてきました。2013年には「医師養成についての日本医師会の提案 第3版」を公表し、医学部5・6年生の診療参加型臨床実習と臨床研修2年間の合計4年間で、プライマリ・ケア能力を獲得できる研修システムの構築を提案しています。この内容は、医師国家試験改善検討部会においても参考にされています。
この中で日本医師会は、臨床実習中の学生が、国民の理解と協力を得て安心して実習に取り組めるよう、「学生医(仮称)」の資格を与えることを提言しています。また、医師国家試験については、臨床実習を通じて習得した医学的知識および技能に基づいて、プライマリ・ケアを中心に適切な臨床推論を行えるかどうかを評価するものにすべきだと考えます。現在医学部6年生は、知識問題を含む医師国家試験対策に多くの時間を割いています。しかし医学的知識については、医学部4年生終了時(大学によって異なる)に受験するCBTでも高度な内容が課されています。そこで日本医師会は、医学的知識については医学部4年生終了時のCBTで評価し、医師国家試験を上級OSCE(Advanced OSCE)に相当する内容に見直すことを提案しています。
臨床研修制度については、日本医師会は新医師臨床研修制度創設時に決議された基本3原則「1.医師としての人格を涵養、2.プライマリ・ケアへの理解を深め患者を全人的に診ることができる基本的な診療能力を修得、3.アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備」を堅持し、地域社会で充実した研修体制を構築すること、臨床研修医が単なる労働力として位置付けられることなく研修に専念できる環境を整えることなどを支援します。
日本医師会は日本の医師を代表する学術専門団体として、これからの時代の医療を支える医師を育てるため、引き続き医師養成のあり方について議論を重ね、提案をしていきます。

厚生労働省

医師の質を国民に担保するために

厚生労働省 医政局医事課 試験免許室

厚生労働省医師法第9条に、「医師国家試験は、臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識及び技能について、これを行う。」とあります。これは、「医師として必要なものは何か」という基本に立ち返った際の答えとなり得るものです。つまり、「臨床上必要な医学」と「公衆衛生」が、医師として知っておくべき知識・技能の2本の柱とされているということです。
2001年、試験問題が500問に増えました。これは医学の進歩に伴い、学ぶべき事項が増加していることに鑑みて、医師国家試験改善検討部会で議論された結果の改定でした。この際に増えたのは、主に臨床問題です。今後は、臨床実習を踏まえた、より実践的な問題を国家試験に盛り込み、国家試験の内容を初期臨床研修にしっかり役立つものにした方がいいのではないかと、改善検討部会でも議論が重ねられています。
医師国家試験は、医師として最低限の知識と技能を有しているということを国民に対して担保するための試験です。そして、広く国民が求める医師像とはどういったものか、これから現場で求められる知識・技能はどのようなものかについては、有識者が集まってわずか500問の中にいかに組み込むかを常に検討しています。学生のみなさんには、「この分野・この診療科の問題が多く出題されているから勉強する」といった試験対策に陥らず、医師国家試験は医師として身につけるべき内容を問うものであると認識したうえで、学習に取り組んでいただきたいと思います。

No.12