医学生が考える 医学教育、このままでいいの?

医学生が考える
医学教育、このままでいいの?(前編)

医学生の立場から医師国家試験に何を求めるのか、医学教育に対してどのように働きかけていけるのか、研修医の先輩を交えて話し合いました。

医師国家試験は受験勉強の延長?

池尻:僕はまだ3年生で、国家試験についてはあまり具体的なイメージがなかったのですが、何となく国試って大学入試に似ているのかなと思っていました。6年生になってから知識を必死で詰め込んで乗り切る感じというか。

水野:うちの大学では、授業でも「この疾患は国試に出るから覚えておいた方がいい」とよく先生に言われます。ただ、「国試によく出るけど、日本ではあまり症例が多くない」と言われる場合もあって、6年生になったら臨床ではあまり出会わない疾患のことも必死に覚えなきゃいけないのかな…と思ったりします。

渥美:私も、授業や試験は本当に臨床に役立つのかなと疑問に思うことが多いですね。周りの人たちも、1週間前ぐらいから試験勉強を始めて、とりあえず目の前の試験に合格すればいいと思っている人がほとんど。そういう状況で日々過ごしていると、臨床に出るイメージも湧かないし、正直不安です。自分が将来どんな医師になりたいかを考える時間もあまりなく、モチベーションを保つのが難しいなって思います。

岩間:私は高校の時から、訪問診療を見学させてもらったり、実際の医療の現場を見たりといった活動をしていたので、まだ2年生ではあるけれど、将来なりたい医師像はイメージできている方だと思います。将来のために勉強も頑張りたいと思っているし、モチベーションは低くない方だと思うけれど、それでも、試験に受かるだけなら60点取ればいいんだと思うと、授業を聞かずに過去問を解いていればいいのかなって思ってしまう瞬間があります。

水野:僕もモチベーションを保つのは大変だなと感じますね。というのも、僕の大学では試験の解答があまり公表されないんです。点数も明かされないし、合否だけしかわからない。試験の結果って、自分の頑張りに対するフィードバックになるはずなのに、それがないとやっぱりやる気が落ちますよね。いかに楽に試験を乗り切るかだけを考えている同級生も多いです。

医学生にも多様な学びの機会を

岩間:試験がある以上、どうしても試験のための勉強という感覚になるのは、ある程度は仕方がないのかなとは思います。でも私は、医学部で得るべき知識って、自分のためというより、将来診ることになる患者さんのために持っていなきゃいけない知識なんじゃないかなと考えています。

鵜飼:そう感じます。私は後期研修医ですが、学生時代はみなさんと同じようにイメージが湧かず、モチベーションが下がった時期もありました。結局マニュアル化された試験のために勉強して、合格したら終わりなのかなと感じたこともありました。けれど、実際に医師になって経験を積んでみると、例えば2年生でやった解剖学がすごく大切だったりするんです。

橋本:私も臨床実習を終えてみて、大学の授業で学ぶ知識も大事だなと思うようになりました。臨床実習では、ひとつの診療科を回るのはたったの2週間程度で、経験できない症例もたくさんあります。実際に医師として働くために幅広い知識を得るという観点では、国試のために一定の期間、集中して机に向かうのも有意義なのではないかと思います。

渥美:知識が大切なのはもちろん理解できます。けど、医学生は一人ひとり、どんな医師になりたいか、どんな医療をやりたいかが違うと思うんです。でも、今の授業では知識を得ることばかりに時間が割かれていて、それ以外のことを考える余裕がない。もっと教養というか、人間のコアな部分について考える機会が授業の中に盛り込まれていたらいいのにと思います。

池尻:あと、最近はPBL(Problem Based Learning)という、患者さんの症例から入って、問題を解決していく力を育もうという授業が増えていますよね。そういう風に、実際の患者さんのケースやシナリオを考える機会がもっと増えれば、ただ講義で知識を教えられるよりも実感を持って学べるようになるんじゃないかなと感じています。学生のうちは講義の時間を減らして、PBLを大事にするようなカリキュラムにするのはどうでしょうか。

渥美:大学によって、知識を重視する大学、一般教養を重視する大学、PBLを重視する大学…など、バリエーションがあったら嬉しいのに、と思います。

 

医学生が考える
医学教育、このままでいいの?(後編)

とはいえ、一定以上の知識は必要

水野:確かに教育を受ける側としては多様な選択肢があるというのはありがたいことですけど、一方で国民からすると、「それで大丈夫か?」と思う部分があるのではないかと僕は感じます。日本で医学部を出て医師免許を持っているならば、一定の質は担保してほしいなと、僕が患者なら考えると思うんです。

鵜飼:どんな医師になりたいかイメージするために医学以外を学ぶことも大事だし、PBLなど症例を通じた学びから得るものも多いと思います。けれど、そうした学び方ばかりでは、教科書にあるようなベースラインの知識は網羅できない。実際に臨床に出て患者さんと向き合って診断・治療をするときに、学生時代に得た知識や理論は基礎になるんですよね。やっぱり一度でも学んだかどうかでずいぶん違うので、学生時代に教科書的な知識や理論をダイジェストで学んでおく必要はあると思う。そして、ベースラインを習得することができたかどうかを問うのが、国試なんじゃないかと私は思っています。

これから医学生にできること

岩間:ただテストに追われる毎日…というモチベーションの低い状態から抜け出すためには多様な学びが必要だし、一方で最低限必要とされる知識はしっかり学ばなければならない。どうしたら、その両方を実現できるのでしょうか。

鵜飼:ひとつは、大学の仲間と狭い世界で過ごすのではなく、学生団体などで活動して、視野を広げていくことでしょうね。私も学外の仲間と交流することでモチベーションを維持できたように思います。

橋本:私はPBLにそのヒントがあるように思っています。私は、PBLで学ぶべきことの本質は、学生が自ら学ぶ姿勢を身につけることだと考えています。確かに授業で行われるPBLだけでは、医師として最低限の知識は担保できない。でも、自ら学ぶ姿勢を習得できたなら、あとは知識を身につける機会を学生たちが自ら作っていくことだってできると思うんです。

水野:具体的には、どのような機会を作るのがいいのでしょうか?

橋本:私は4年生の時に、ケースプレゼンや身体診察の仕方など、講義で習わないけれど臨床では大事なことを自主的に学び合う勉強会を立ち上げました。そして、勉強会で学んだことをアウトプットする機会も多く設けてきました。例えば救急に興味を持っている学生を集めてBLS*について学び、自治体の協力を得て、地域でAEDの使い方についての講習会を行わせてもらうなどです。学んだことを人に伝える場を作ったことで、1年生も以前より熱心に参加するようになったと感じますね。

渥美:確かに、もっと自分で表現する場があれば、やる気が高まるかもしれません。

橋本:ええ、きっとそうだと思います。ただもちろん、学生だけではわからないことやできないこともたくさんあります。そういう場合は教員に協力をお願いしています。教育熱心な先生なら、例えば放課後に勉強会に顔を出して身体診察について個人的に教えてくださるなど、案外快く引き受けてくださいますよ。

池尻:大学のシステムの中に、自主的に学びたいという学生を支援する仕組みがあれば、もっと学ぶ意欲が出てくる気がしますね。先生方にもぜひ診療科を越えてディスカッションをしていただいて、学生の学びたい気持ちを後押しするような仕組みを整えてくれたらいいなと思います。

水野:これからの医学教育がそういう風に変わっていくように、僕ら学生から声を上げていくことが大事かもしれませんね。

*BLS…Basic Life Support(一次救命処置)

 

No.12