地域医療ルポ
患者本人が本当に希望することを、常に探しながら
岐阜県高山市丹生川(にゅうかわ)町 丹生川診療所 土川 権三郎先生
岐阜県の北東に位置する。高山市は2005年に旧丹生川村を含む周辺9町村を合併したことにより、面積約2,177平方キロメートル(東京都の面積は約2,188平方キロメートル)と、全国で最も広い市町村となった。盆地であるため夏は暑いが、冬は寒さが厳しく気温がマイナス10度を下回ることも少なくない。
旧丹生川村は、北アルプスの西側に位置する風光明媚な山村である。東京23区の3分の1を超える広さに約4500人が暮らす。医師は土川先生ただ一人。村の開業医の三代目として生まれ、幼少時からこの地の医療に携わろうと思っていた。
地元の高校から名古屋大学に進み、市中病院の肝臓内科でキャリアを積んだ。学位に興味はなかったが、専門を決めたからには知識を深めようと、その道で有名な長崎の病院に研修にも行った。20年ほど勤務医として働き、診療所に医師がいなくなったのを機に丹生川に戻った。
今は在宅での看取りや緩和ケアを手がけており、毎日のように訪問診療に出る。
「午前は外来、午後は往診というスタイルは、以前からのものを踏襲しています。在宅医療に取り組むのは特別なことではなくて、家に居たい人が家で過ごせるようにしているだけですよ。緩和ケアは、常に痛みを取り、常に苦しみを取るということ。本来の医療のあり方です。病院にいると、どうしても検査や治療をしたくなりますが、その検査や治療は本人にとって本当に意味があるのかを常に考え、苦痛に寄り添って、楽に暮らせるように相談しながら徹底的にやる。当然のことです。」
今でこそ終末期を自宅で過ごすことが浸透してきているが、土川先生が戻ってきた頃は、調子を崩したら病院に行くのが当たり前という時代だった。
「家で看病していると『なぜ病院に入れないんだ』と言われる時代でした。癌だろうと何だろうと、希望すれば家で過ごせるという考え方を定着させるのに、10年ほどかかりましたね。家で看る覚悟をしてもらうために、家族全員に集まってもらい、話し合いをすることもあります。夜遅くになることもありますが、直接話して信頼関係を作る時間は大事にしています。」
いずれは在宅ホスピスや緩和ケアの知識を、周辺地域の医師たちと共有する場を作りたいと考える。また、地域医療を担う後進の指導にも力を入れている。
「臨床研修医の地域医療研修を受け入れています。研修医が地域の在宅医療に触れるのは、この2週間だけ。これが終わると、またしばらく急性期医療ばかりに携わることになる。だからこそ、ここに来ている間に地域の在宅医療をしっかり学べる機会を作り、丁寧に説明することを心掛けています。」
2年前に、公立だった診療所を買い取り、法人化した。いずれ地元出身の若手医師が戻ってきたらここで働けるようにとの思いを胸に、土川先生は今日も広い山村を回って診療を続ける。
(写真中央)地域医療研修を受け入れ、後進の指導にも熱心に当たっている。
(写真右)診療所の外観。
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