10年目のカルテ

生まれ育った地で、
地域に求められることをやっていく

【精神神経科】兼子 義彦医師
(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)-(前編)

卒後すぐ、精神科へ

兼子先生

――先生は医学部を出て、すぐに精神科の医局に入られたんですか?

兼子(以下、兼):はい。私は秋田県出身で秋田大学を出て、そのまま秋田大学の精神科に進みました。研修の後に市中病院でローテート研修をさせていただこうと思っていたのですが、受け入れ先の都合でキャンセルになり、結局他の科を経験することなく今に至ります。

――大学病院での研修後、どのような経験をされましたか?

兼:最初に赴任した中通総合病院では主に外来を担当していました。また、他の診療科に入院されている患者さんの精神的なケアに関わることも多かったです。グループ病院である中通リハビリテーション病院への回診も行っていました。リハビリテーション科の先生方は、私たち精神科医の存在をとても大事に考えて下さって、胃ろうの造設や中心静脈栄養のカテーテル挿入なども「やってみるか」と声をかけて下さいました。ローテート研修ができなかった自分にとって、ここで基本的な手技を経験できたのは大きな経験だったと思います。

――リハビリテーション科の患者さんで精神科が関わるケースというのはどのような場合なのでしょうか。

兼:リハビリテーション病院に入院するのは主に神経内科・脳神経外科・整形外科の急性期から移ってきた患者さんなのですが、精神科は脳血管障害を経た患者さんに関わる場合が多いです。脳血管障害そのものが精神面に与える影響が少ない場合でも、後遺症を受け容れるのに苦労する方は多く、障害受容が大きな課題になります。抑うつ症状が出る場合もありますので、そうしたケースを精神科でカバーするという形です。

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生まれ育った地で、
地域に求められることをやっていく

【精神神経科】兼子 義彦医師
(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)-(後編)

地域のジェネラリストとして

――一方で、次に赴任した角館総合病院では、主に入院治療に携わっていたのですね。

兼:はい。角館総合病院は総合病院ではありますが、精神科も地域にそこしかないという状況でしたので、自傷他害のおそれがある緊急度の高い方から、20~30年の入院歴のある方まで、100床の同じ病棟の中で全て診ていくという形でした。私はここに赴任する少し前から、精神疾患の患者さんが退院して地域で暮らしていくためにはどうしたらいいかということに興味がありました。こうした取り組みを精神科分野では「社会復帰」と呼ぶのですが、角館総合病院は古くから社会復帰の分野に力を入れている病院で、患者さんが地域で暮らすことができるよう様々な支援を昔から行っていたそうです。特に患者さんが自宅以外の場所に戻る際には、受け入れる施設を整備し、その地域の方々に理解していただく必要があります。そのために奔走し、苦労してきた精神科医や精神保健福祉士(PSW)がいたのだなということを学びました。この頃に、私は今後も精神科医として、地域でジェネラリストとして役割を果たしていきたいと思うようになりました。

――10年目の頃に、一度大学に戻られていますね。

兼:はい。医局の慣例もあり、10年目に差し掛かろうという時期に一度出身大学に戻りました。そのまま大学に残る医師もいますし、学位を取る医師もいますが、私は地域の病院で臨床をやりたいという気持ちがますます強くなっていました。そこで、当時の准教授にやや強く熱くお話しさせていただき、現在の病院に赴任する運びとなりました。

老年精神と精神科救急を学ぶ

――現在は、どのような業務を行っているのでしょうか。

兼:精神科の三次救急指定病院として、小学生から90代の方まで可能な限り受け入れています。特に措置入院については、秋田県内の半分以上を受け入れています。救急では警察や保健所が関わるようなケースの方がこちらに送られることが多いです。
また、この病院は秋田県唯一の認知症疾患医療センターでもあります。認知症の診断・治療はもちろんのこと、地域の一般開業医から認知症の相談を受けるのも役割のひとつです。検査もかなり充実しており、精神科単科の病院と比べて、より詳細な診断・治療ができるといえます。さらには、地域の教育・啓発活動を行うという役割も担っています。この病院では精神科がリハビリテーション科と常に協働しているので、認知症の方のリハビリテーションも行いやすい環境だと思います。

――今後、どのような医師になっていきたいと思いますか?

兼:私は医師17年目になりますが、この歳にして新しい専門を身につけようと奮闘しているところです。ひとつは日本老年精神医学会の専門医資格です。昨今、認知症の方を含め、高齢者の方を診る機会が増えていますので、時代が老年精神の専門家を求めていると考えています。もうひとつは精神科救急です。この分野はまだまだ新しく、専門医制度は立ち上がっていないのですが、新たに学会に加入して学んでいます。田舎の臨床医でも、できる限りの知識をつけて、何とか自分の力にしていけたらと思っています。


兼子 義彦
1998年 秋田大学医学部卒業
2015年1月現在
秋田県立リハビリテーション・精神医療センター
精神科診療部 副部長

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